第17話 ダンジョン再興計画


 ――ガル・アルカデ島にダンジョンを作り直す?


「本気? そんなこと許されると思ってるの?」


 もし、彼に島をダンジョンに作り替える力があるとして。住んでる場所が突然ダンジョンになるなんて、島に住む人や精霊が受け入れるなんて到底思えない。


「うむ、我もそう思う」


 私の言葉にあっさりと極彩色パレスは肯定した。


「我らは大願成就のためこの島に降りたち、島の色々な場所を下見したのだ。そして、我らの道が茨の道であることを知った」


 極彩色パレスは、その立方体の体を震わせながらいかに自分の目的が困難であるかを私達に語り始めた。

 人間と違って声帯が無さそうなのに、彼の声に合わせて小箱の体は小刻みに震え、蓋の部分が少し開いたり閉じたりしている。


「まず、ダンジョンを作るためには広大な土地が必要だが、既にそこから難しい。人が多い場所は土地の所有者も多く、そいつらから土地を手に入れるためには高い土地代を払わねばならぬ。ならば、人が住まない森や山ならどうかと思えば、そこは精霊の住処。金銭で買い取りが難しい分こちらの方が難易度は上だ」


「次に、我が力の弱体化。中途半端に存在している我の能力は大半を失っている。ダンジョンを生成するための創造特技スキルは辛うじて残ってはいるが、それを使うためには莫大な魔力マナが必要だ。しかし、弱体化した我には莫大な魔力マナを継続して使用は困難になっていたのだ!」


 ……長々と話す極彩色パレスにばれないように、私は彼らの立ち位置を確認する。

 極彩色パレスが落ちた床は私達が座っていたソファから少し離れている。背後には受付のカウンター、そこを超えると玄関のスペースがある。

 レコードはまだソファの隣で浮いたままだ。


「さらに、ダンジョンを運営するためには中を守る守護者ガーディアンが必要だ。それも、ダンジョン時代に使役できた精霊やモンスターは 解放されてもはや存在せぬ。つまり、新ダンジョンの守護者ガーディアンは雇用。すなわち、全員に賃金に値する何かを与えた代価に守護者ガーディアンとして従ってくれる者を探さねばならん! さらに、我に立ちふさがる困難と言えば……――」


 流れる様に極彩色パレスのダンジョンを作る難しさの説明が続いていく。……わざわざ逃走優先しないで経緯を語り始めた辺り、誰かに話したいくらい色々溜まっていたのかもしれない。

 こちらとしては捕まえる猶予が貰えてありがたいことだけど。


「そうか、創造特技スキルはお前の力だったのか。確かに二体を一体に偽っているなら能力も一体の振りをしていたわけだな」


「実はそうなんですよ。さらに言いますと、贋作の一部は主様が作られたんです。何せ、主様はダンジョン時代に宝箱の中に偽物をたくさん仕込んでいましたから、こういうのは得意なんです」


 うわ、嫌な特技!


「なるほどな。さっきレコードが答えた供述ではクルックスに騙されたと言っていたがどこまでが本当なんだ?」


「騙されたところまでが本当ですよ。まあ、私達も主様の存在は伏せていましたし。こちらの真の目的はお伝えしてませんけどね」


 ログ君の質問に早く逃げたそうだったレコードもちゃんと答えてくれている。

 彼女は、アレスト君が特技スキルを使えばすぐ捕まえる位置にいる。けれど、さっきみたいに隙を突かれれば次は無い。

 しかも、アレスト君の特技スキルは一体用。精霊二体を相手してる状況で無駄打ちは避けたいところだ。


「それにしても、よく騙した相手と手を組んだな」


「うむ、騙されたことに最初こそ怒りを覚えたが、我は考えを改めたのだ。彼から頼まれた仕事をこなす内に気が付いたのだよ。ダンジョン再興の前に早急に成し遂げなければならない問題があると!」


「問題って何?」


 ルルの疑問に極彩色パレスは厳かに答える。


「問題。そう、それは資金だ! そのために我々は金を稼ぎ貯蓄することが必要だったのだ!」


「貯蓄ねえ……」


 なんていうか……そういう話になるのは納得するんだけどさ。

 こう、壮大な目標から思ったより俗っぽいというか地道な話が出てきたなって感じだ。


「はっはっは! クルックスに出会ったのは運命であったな。彼との出会いのお陰で、ダンジョンの再興への道を理解できたのだからな!」


 極彩色パレスはいい話風に話してるけど、それで資金集めにすることが贋作詐欺なんだから何にも良くない。そんな運命捨ててしまえ。


「そういえば、レコードはなんでこんな奴に付き合ってるの?」


 話を切り替えて私は気になっていたことをレコードに聞いてみる。

 ダンジョンから解放されたんだから、本来なら極彩色パレスと主従関係なんて無くなってるはずなのに。


「それが、解放されてから自覚したんですけど……」


 そんな私の疑問に、レコードははにかみながら答えてくれた。


「私……。人を驚かせるのが好きだったみたいなんです」


「ちょっと」


「思い返してみて、ダンジョン時代めちゃくちゃ楽しかったなって」


「君、思ったより最悪――!」


 照れくさそうに告げられた答えに、思わず正直な感想が口から飛び出てきた。

 解放された意志がこれって、もしや極彩色パレスよりこの子の方がやばいのでは!?


「それで、今度は私が私のためにダンジョン運営をお手伝いしたいって思ったんです」


「うむ。レコードの忠誠心にはいつも助けられているぞ。感謝する」


「はい! ありがとうございます主様」


「いやいや、それ忠誠心じゃない。完全に趣味のためだって」


 私のツッコミにレコードは完全に無視して、主である極彩色パレスに微笑みかける。


「さ、主様。そろそろお開きにしませんか? いい加減逃げないと、あのおっかない精霊が食べに来ちゃうかもしれませんし」


「むむっ! それは困る。では、我らは撤退するとしよう」


 ついに、お話が終わってしまった。

 どうする? 彼らを捕まえるにはアレスト君の特技スキル石鎖捕りロックキャプチャーで捕まえるのが一番。

 アレスト君の石鎖捕りロックキャプチャーは精霊を縛れる特技スキルだ。ただし、一か所限定なので離れている二体には使えない。 

 しかも、極彩色パレスは体の形を変えることができる。捕まえた瞬間にするっと形を変えて抜け出してしまったらお終いだ。

 となると、使うならレコードの方!


「ログ君!」


 ログ君の方を見ると、彼もアレスト君に指示を出すタイミングをうかがっている様だった。

 小さく頷いて、アレスト君の方を見る。


「ということで、さらばだ諸君! 次は我がダンジョンで会おう」


「簡単に逃げれると思うな! アレスト、レコードに特技スキルを!」


「了解シタ!」


 ログ君の声にアレスト君の周りに鎖の束が現れる。


「いえいえ、逃げますよ。さっき取り返した贋作から魔力の回収はもう済ませてますし」


「また視界を奪う気!?」


 とはいえ、ただ眩しいだけなら回避の仕方は色々ある。

 一回目だって、少し無理をしたけど直接光を見ないようにすればなんとか視界の確保はできたし。

 アレスト君の特技スキルが打ち間違わなければいけるはず!

 そんな私の考えを見透かすようにレコードは薄く笑ったまま手をこちらにかざして口を開いた。


「やだなあ、警戒しちゃって。安心してください、貴方たちに使いませんよ。


 意味深な言い方に疑問を持つ前にレコードの特技スキルが発動する。


回想アルバム――」


 瞬間――。眩い光は現れなかった。

 現れたのは、切り裂く様な何重もの叫び声。


「え、え。何」


 怯えるルルが私に寄って腕をつかむ。


 声の主は、相談所にいる野良精霊達だった。

 叫び声を上げて無作為に飛び回る子。

 突風の特技スキルを発動して周りの備品をぐちゃぐちゃにしている子。


 彼らは私達に見えない何かに恐怖していた。

 まるで、何か恐ろしいものに襲われたかの様に。


「一体何を見せたのレコード!?」


 私が睨むと、あっさりレコードは答えをくれた。


「内容ですか? ちょっと精霊の皆さんには、私のトラウマなあの黒い精霊さんの記録を見せてみました★ やっぱり、いきなり食べられそうになったら皆さん正気を保てないですよね。よく分かります」

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