解ける二番目

エリー.ファー

解ける二番目

 世界は未曽有の危機に立たされたが、解決した。

 二番目の危機が地球を襲う。

 しかし。

 それは今から二百年後のことなので基本的に安心しきっていた。

 二百年後のためにできることと言えば、核シェルターを用意することと、それによってどれだけの影響が地球に出るのかを計算することだ。まだ、この段階で、解決策を模索するというのは時期尚早であるし、そのような行動が実質問題の解決に当たれるとは思えなかった。

 実際のことを言えば。

 二番目と違い、一番目に訪れた地球の危機はとてもではないが、避けられるものではなかったのだ。

 地球の滅亡は間違いなく、ほぼ百パーセントの確率で人類及びその他の生物は死に絶えると推測されていた。誰もが神に祈り、人類の七割がどこかしらの宗教派閥に属したという。簡単に言えば救いを求めたのである。

 多くの人々の命を犠牲にすることで、その危機を回避する方法もないわけではなかったが、それでは、なんということのないただの被害を縮小しただけに過ぎない。それは決して、この人類にとってはじき出すべき結論ではなかった。

 多くの人間が頭を悩ませ、そして、多くの人間が知恵を絞り、そのたびに血反吐を吐く思いだった。どのような手段であっても、地球の滅亡を回避する手立てはない。何かも遅すぎたのだ、という言葉を一体何度口にして、そのたびに同じ回数分、自分自身を無理矢理奮い立たせたのだ。

 人類を救うのは、少なくとも、地球のどこかにいる誰かではない。

 自分なのだと、そう言い聞かせたのだ。

 それは。

 それはいつしか。

 人類全員の気持ちと一体化していた。

 何かできることはないのだろうか。

 今、するべきことは何なのか。

 本当に。

 戦争などしているべきかのか。

 差別などしているべきなのか。

 無学でいていいのか。

 無知を恥じなくていいのか。

 共に歩むために手を差し伸べなくていいのか。

 自分の歩幅で歩ければそれでいいのか。

 自問自答は繰り返された。そして、結論の出ない悩みに向き合い続けた。結果として、答えの出ない思考の迷路に迷い込み続けることが正解なのだと、それでも思考し続けるすべてが、今を変えるのだと信じた。

 それは間違いなく、特に証拠もなければ、意味もないただの哲学だった。

 ただの限界まで行きついた末の、思考の絞り滓だった。

 ただ、それでも。

 共に悩みぬいた先に結論はなくとも、共に悩みぬいたという友はいた。

 肩を組むことができた。

 いつの間にか、国境はなくなり、共通の言語を持ち議論し合い、分かり合う世界が地球に生まれていた。

 それが、本当に、その地球の滅亡という一番目の問題によって作り出された世界だとは到底思えなかった。

 目に見えぬ巨大な絶望は、目に見える形で人類を希望の塊に変えていた。

 そして。

 それは一番目の問題であった最初の地球滅亡を退ける結果を産んだのであった。

 すべては成功したのだ。

 あとは、二百年後にやって来る二番目の地球の滅亡にいかに立ち向かうかである。

 そして、もっと言うのであれば、その二番目の問題は解決した一番目の問題よりも幾分か、解決の糸口があるものだった。

 それもそのはず、一番目の問題によって発展した技術が、二番目の問題の解決の手助けとなることは明白だったのだ。

 だからだろう。

 油断して、人類は滅んだ。

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