だから僕は、復讐を決意する。

愉悦太郎

第1話 望まなかった契約

時は、2018年 6月24日

若者の希望に満ちていたこの世界は

絶望へと変わった


どこから来たのかは、わからない。

何故、来たのかは、わからない。

けれども、人々は察した。

奴等は悪魔。

伝承通りの見た目をした災害。

目に映る全ての人間を、時に喰らい、時に解体し、殺した。


奴等は夜に動きだす。

何故夜なのかは、わからない。

だが、朝に動かないのが唯一の救いとも言える。

奴等に慈悲は無い。

目に映れば必ず殺しに来る。


7月9日

ついに政府は軍を投入した。

24時間体制で県内を巡回し、奴等を見つけ次第、発砲、射殺せよと命じられた。

しかし、政府の抵抗は一切功を奏せずに終わった。

奴等に銃弾は効かなかった。

僅か一日で投入された軍の過半数が死亡した。

圧倒的力の前に、政府は為す術が無かった。


7月16日

日本政府は国民の全てを他国に移動させ、日本を核で奴等と共に消そうと考えた。

しかし、その計画は実行できずに終わった。

奴等は、空港、港を襲撃。

一時間足らずで占拠された。


7月27日

奴等を倒せると名乗る者達が現れた。

その者達は自身らを悪魔殺しエクソシストと名乗った。

悪魔殺しエクソシストは悪魔を殺すことが出来た。

メンバーの構成は、リーダー、副リーダー、情報管理者(参謀)、戦闘要員10名であった。


そして、現在、2019年6月21日

世界は、ある少年一人を中心に回り始めた・・・・

そう、この日こそ、少年の運命を変える日となった。



「いってきます」

僕が言うと、母さんは「いってらっしゃい」と返してくれた。

徒歩40分程のところに、僕の通う学校がある。

私立朧風おぼろかぜ高校

これが、僕の通っている学校だ。

学校に向かうにつれ、近所の人や友人と挨拶を交わす。

「よっ、はじめ!」

聞き覚えのある元気の良い声と共に僕の背中を叩いてきた。

「おはよう、籠目。」

「おう!おはよう!!」

彼は、御手洗 籠目みたらし かごめ。僕の親友だ。

ちょっと五月蠅いところがあるけれどとても元気だ。

そして、よく彼の家に泊まったりする程の仲だ。

ちなみに、寝るときは家にある地下シェルターで寝ている。

これは、どの家庭でも同じだ。

シェルターにいれば、基本的には安全だから。

今では、普通の家は、仮の住まいだったりする。

「それでよぉ!この前、真二の奴がさ!・・・」

籠目の話は、いつ聞いても飽きない。

学校に着くまでは、ずっと彼と雑談している。

たまに話しすぎて遅刻ギリギリになったりするのが玉に瑕だ。


「おはようございます!」

そうこうしているうちに、学校に着き、校門にいる先生に挨拶をする。

籠目とは、奇妙な縁でもあるのか、何故か小学校の頃からずっと同じクラスだ。

だから、教室に着いても雑談をする。

さらに、これもまた、奇妙な縁なのか、席もほぼ毎回彼が前後のどちらかにいる。

流石にここまで来ると一種の呪いかもしれない・・・

まぁ、彼といると楽しいから別に良かったりする。

今の学校はどこも共通で5時限目までと決まっている。

少しでも家族との時間があるようにと教育委員会が決めたらしい。

なんせ、いつ死んでもおかしくないからだ。

5時限目が終わった。普段なら家に帰るのだが、今日は籠目の家に泊まる事になっている。


籠目は独り暮らしだ。

一年前に奴等に家族全員殺されたのだ。

生活費等は全て国から出されている。

家族のいない学生は、これの対象だ。

籠目の家は、学校から、徒歩30分程のところにある。

ちょっと大きめの一軒家だ。

僕らは、夜までゲームや雑談をしながら過ごした。

過ごしていた。


そう、さっきまでは、だ。

僕の目の前には、さっきまで楽しく話していた籠目の姿は無い。

あるのは、無惨に喰い殺された籠目の姿だった。

臓器は辺り一面に散らばり、体は上半身と下半身が別々となっている。

そして、上半身には、頭が付いていない。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

僕は、悲鳴を上げた。

絶望した時にだけ出るであろう、この世の終わりを目にした人間のような悲鳴を。

籠目の頭を持っているのは、喰っているのは、奴等。

名も無い悪魔だ。

悪魔は、とても美味しそうに籠目の頭に齧りつき、脳や血液をチューチューと吸っていた。

餓死寸前の人間が目の前の極上の食材にむしゃぶりつくように。

頭がどうにかなりそうだった。

さっきまで楽しく話していた友の姿は一瞬で肉片に変わったからだ。

何故、ここに来ているのか。

どうやって入ってきたのか。

次は、自分の番なのか?

いつ死んでもおかしくない絶望的な状況の中、僕は考えた。

考えようとした。

けれど、恐怖で脳が働かない。


死にたくない。


怖い。


嫌だ。


来るな。


・・・・そんな単語しか頭に思い浮かばない。

食事を終えたのか、悪魔は籠目(であったであろう肉片)を捨てた。

もう、原型は留めていなかった。

そして、僕の方を見た。

「あ…」

悲鳴をあげる瞬間に

悪魔の腕は僕の体を貫いた。

「ガ…」

口から血を吐き出す。

開いた穴から大量の血が溢れ出る。

僕は…死ぬのか・・・・

どうせ死ぬなら、最後に一目、家族を見たかった。


昔の思い出を振り返る。

走馬灯・・・と言うのだろうか。

一瞬のはずが、とても長く感じられた。

「お前はまだ、生きたいか?」

誰かの声が聞こえる。

「生きたい…」

僅かな力を振り絞り、僕は答えた。

「では、契約しろ。代償は…そうだな。お前の家族の命だ。」

・・・は?

家族の命…?

それが・・・代償…?

断る。

家族を捨てて…自分だけ生きようなんて思いたくない!

「ならば、そのまま死ぬがいい。」

望むところだ。

このまま死んでやる…

家族が生きてくれるならそれで構わない。

この選択は…間違ってない。

僕はそう思った。


「・・・どうやら、契約成立のようだ。」

・・・・・・?

何を言っているんだ?

この声は・・・・

「お前の父と母は死んだ。たった今、悪魔に殺されてな。そして、お前の通う学校の人間共も、半分以上殺された。」

・・・・・・

何を言っているか、わからない。

わかりたくもない。

ただ、一つだけ確かな信念が芽生えた。

悪魔奴等を許さない。

決して。

───復讐してやる。

「契約成立…なんだろ?僕は、どうなるんだ?」

「生き返るとも。そして、俺の力を授かる。」

「悪魔は、殺せるのか?」

「あぁ。悪魔には、悪魔だ。殺せるとも。その王だって殺せる。協力しよう。」

「お前も悪魔なんだろ?なんで僕に協力するんだ?」

「そのうち説明してやる。今は、目の前の奴を殺す事だけでも考えていろ。」

「我が名は、サタン。悪魔の王にして、地獄の支配者…さぁ、呼べ叫べ我が名を!」

・・・あぁ、わかった。

お前が誰だろうと構わない…!

今は、目の前の悪魔を殺す!

知らない言葉が、僕の脳に入ってくる。

だが、僕にはこれが何だかすぐにわかった。

「我が名は、サタン…悪魔の王。地獄の支配者にして、憤怒の化身!!我が怒りを受けよ…魔装…憤怒ラース……!!」

僕は、炎を纏う。

灼熱の炎を…

黒き鎧と共に。

まるで、竜のような鱗を───

「さぁ、我が力を存分に使え。」

悪魔サタンが僕に話しかける。

「あぁ、使うとも!」

次の瞬間、驚いた悪魔は、僕に襲い掛かった。

拳を握りしめる。

友を殺された怒りを。

家族が殺された怒りを込めて…

その醜い顔を目掛けて怒りを放つ。

黒い鎧に纏う炎の拳は、奴の顔を焼き潰した。

後方へと、悪魔は飛んでいく。

一瞬の決着。

圧倒的力。

そして、僕は再び決心する。

この力で、悪魔を殺すと・・・

「お取り込みは終わったかな?そして、突然だけど聞かせてもらうよ。」

後ろから、男の声がした。

「君は…一体何者だい?」

それは、知らない者の声だった。

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