第一話 第八章「ソラと王子の我が儘と」

直帰ですぐ夕食だったので、いまやっと二階の自室に戻る。

――ドアの前。

(帰りたくなかった……今日一日ずっと意識の外にして……もーやだ)

あのガラクタ人形は都合よく去ってくれて万事解決――って

いかないのが目に見えてる……(外に白い巨人いたし)王子は……居るだろう。


机の引き出しから猫型ロボットが出て来たら喜ぶけど、戦闘基地にしようって言う

不法占拠人形は、どう対応すれば人生楽しくなるのか。

(―――――……よし、納得しないけど突入して終わらす、おけ?)

ぎぎぃ。

恐る恐る開けてみる……みれば、何か部屋の様子が全く違う。

(ん?あれ?)プラばこが――――……


「なにこれ?プラ箱部屋がぅっ!?」


あたしの部屋が……西洋の宮殿の玉座ぎょくざの間みたいになっていた。

プラ箱を重ねてそれっぽく積んで、その上にあの人形王子が座っている。

『……帰ったか。ようこそ我が宮殿パレスへ。さぁ我を助け……うごふぅ!』

そこらの模型雑誌をぶんなげる。華麗に命中した。


どう努力したのか。

ガラクタ人形はプラ箱製の玉座で王様やっていた(そしてぶっとんで沈んだ)

すごいな。ドミノ選手か何かかコイツ。

「出てけ!って言ったのに何やってくれてんだよ!なに?これ?

 こらー!って、あんたの尻の下の、まだ組んでないプラモじゃん!」

一瞬、あの身体でせっせと宮殿作ったのを想像してしまった。情けない。


「……はぁ、やっぱり夢じゃなかったんだわ」がっくりへたりこむ……

コイツはやはり実在してた。

常にカオス部屋で、ふだん家の人間は全く入ってこないのが幸いだった。


『痛いであろうが!なんだ……余がせっかくお片付けしておいたのに』

……自分で「お片付け」言うな。

にしても不自由な身体でマメなヤツだな。出ていく気もないし。

「認めたくないけどさ。で?……もうアンタを何かの生き物に扱っちゃう

 悪夢を続行ぞっこうするけど」

「ぞっこん?求婚は早いぞ」

「するか……すっごい嫌だけど、朝の続き。

アンタ何で居る?……あのロボット何?基地にするってふざけんな」

一気にまくし立てて自己嫌悪。

ふいっと指で天井の顔を指さす。天井にはまんまの白い人型の顔。

あの姿勢で辛くないんだろかとか余計な心配。


『居る?ロボット?……ふむ、話が進まぬゆえ説明するか』

ロボットとはアゥエスの地上民の呼び名か、と嘆息たんそくする王子。

(……あ、やばい)

長話ながばなしが始まりそうな気がした。

「――あ、もう~不法侵入の異物に何言ってんだーって自分でツッコむけどー!

 待って!お願い!簡潔に話して、プリーズ!」

あたしはすかさず両手で静止する。

『なんだ貴様……ガラクタ王子と言われたのだぞ!ここはねっとり解説させ……』

「はいソコ、ねっとり駄目、お座り」「あん!?」不服そうな顔。

「あのね、いい?倒置法とうちほうで話して。長話聴くの苦手なの」

倒置法?といぶかしむ王子――――こいつたぶんね、

な気がしたのだ。


「オチを最初に話してから解説すると、聴く方がラクになるよって会話の基本よ」

じゃないと聴かない、と振ると「ぬぬぅ……」と一拍、渋々承諾した。

あ、割かし話わかるヤツなのかな?喋る人形に何マジ対応してんねんと思いつつ。


暫しの逡巡しゅんじゅん。長考。

玉座(プラ箱の)であぐらをかいたまま天を仰ぎ、まずはオチを言う。


『はい、我リヒトは一身上の都合で、この部屋を前線基地として滞在する事が

 全リヒトの可決により決定したのです』


「…………………………はい?」

『よし、これでいだろう。……では解説だ。おぉ、それは偉大なるカエルムの民、

 その王子の武勇伝ぶゆうでんとそのー……』

「いやいや!簡潔じゃない!宣言だろ!こら!ねっとり話を進めんなぁぁ……」


――――――静止も空しく、


王子のいきさつ・世界観・敵の存在ってお話が、ねっとりどっさり繰り広げられた。

アカン駄目だ……生粋の王子だ……世間知らずだ――――

すっかり人間対応してしまってる事も忘れ確信、これ全てが後の祭り。

あたしはこの《非日常トンデモ》沼にうずもれてゆくことになったんだ。





「なにが……!!この……!……っっ!」

うんざりした。重すぎた。むすっと苦虫にがむしを噛み砕くわたし。

ずばんっとブレザーの上着を王子に叩きつけて、わなないた。

一連の《天威てんいの国》と《この部屋に来た理由》やらを延々聴かされたあたしは、

そのトンデモ加減に、怒り心頭だった。

「……この小娘!いちいち投げつけてくるな!」

「うっさい!!」

こんな話聴いて、納得しましたよ、じゃぁ従いますねってなる子は

漫画の読み過ぎか、心にお花畑が広がってる天使能天気だろう。

人形王子の怒声に構わずあたしは制服を次々脱ぎ始めた。

「ちょ、待て!庶民、脱ぐな!王族を前にして……破廉恥はれんちぞ!」

ブラとパンツだけになった。何が王族か。その身体で欲情でもするのかい。


「……な~にが主役よ運命よ。ひとを都合のいい便利道具扱いして、

そんなの今すぐ任せておっけーよ!ってなるか!アホ阿呆」

あたしは帰宅後すぐ脱衣クロスアウツしてジャージに着替えるのが日課だ。

プラモ用がお陀仏になったし中学時代のに着替えた。

(こんな唐突な《非日常厄介ごと》なんか……聴いてられるか)


「……ちょっと夜風にあたってくる」

「まだ話の途中だ……まっ」

待て、と言う王子を蹴り飛ばして終わればどんなにラクか。

なんにも解決にはならないことを悟り、静止もスルーして

あたしはベランダから屋根へ上った。


さっきの一瞬垣間見かいまみた、

王子のさえ無ければあたしは運命が分かれてたのかもしれない―――。


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