ご存知?ホストは2番目がお得なの!

さかき原枝都は(さかきはらえつは)

ご存知?ホストは2番目がお得なの!

和希かずき本当にいいのか?」

「あ、いいすっよ。俺、一番ていうガラじゃねぇし」

「でもさぁ、お前の売り上げだけ見ると、どうしてもダントツなんだけどさぁ」

「マネージャ、そこはさ、ほかのやつに割り振ってくんない。あ、そうだ、じゅんにこれくらいやってくんない。そうすれば彼奴一番じゃん」

パソコンの業務画面の数値を手早く和希は変えた。

「おい、こら。勝手に触んなよ」

「いいじゃん。ほらこれで準がトップになった」

「まったくお前っていう奴は……。これでEnter押したら今回の懸賞金、準に行くことになるぞ。今回はオーナーから出るやつだからでかいぞ。それでもいいのかよ」

「いいて、いいて。それ以上に俺は稼がせてもらってるんで」

ポン! とEnterキーを押した。

「ああ、勿体ねぇ」と、マネージャは言うけれど、実際、俺は一番ていうガラじゃない。ほんとうにそうだ。

昔からそうなんだ。

小学校の時も、中学校の時も、いつも俺はクラスの2番手に居座り、必ず俺の前に誰かを置いていた。

流石に高校に行ってからは、1番とか2番とかそんなもん気にすることもなくなった。もっとも表には出ようとしなかったというのが本当かもな。

大学入って始めたこのバイト? もう今じゃバイトというよりも本業のような感じになった。


ホストという、おねぇ様たちを喜ばせる仕事。


友達に誘われて、かる―い気持ちで面接して、即採用。

初めて1年。俺目当てに来てくれるお客も随分と増えた。

まぁなんだろう。自分で言うのもなんだが、この仕事俺に向いていたのかもしれない。

同じ店のホスト仲間は我先にナンバーワンを競っているけれど、俺はそんなこと別に気にもしていない。しいて言えば、できるだけナンバーツゥの席に留まっていたい。

まぁこの世界、実力主義。稼ぎたかったらナンバーワンを目指すのが当然だろう。

でも俺はこの2番手というのがいい。

ナンバーツゥ。それこそが俺のナンバーワンだからだ。

なんで、ナンバーツゥがいいのかって?

そりゃそうだろ。先頭に立てばその先は自分で切り開かないといけないし、常に下のやつからは、蹴落とされそうになるのを夢中で阻止しないといけねぇし。

その点2番手ていうのは気が楽だ。

前に人がいる。それだけで、何となく安心出来る。それにこれ、俺の戦略? そんなたいそうなもんじゃないけど。


「ああ、今月も俺ナンバーワンなり損なたよ」


この言葉、意外と効くんだよね。

「和希、私応援してるから」

おねぇ様達から、この言葉をいただけると、たんまりと売り上げが上がる。つまりは俺の成績が上がるっていう事。

もしこれがナンバーワンだったら、「この店の看板ホストです」て、実際嫌なんだよね。店しょっているっていうの。

プレシャーはかかるし、お客はナンバーワンていう言葉に期待するし。

だいいち、甘えられないじゃん。

俺は甘えてなんぼ! そんなもんだから2番手がちょうどいい。

でもこれがそれ以下だと、俺のプライドが許さないようだ。

小学校の時、クラスで一番目立つていた奴の陰になって、そいつとつるんでいた。でも俺の位置を狙う奴に俺は容赦はしなかった。

今もそうだ。ただ、今と昔と違うのは、上下関係をしっかりと守っているという事だろう。だから、先輩に疎まれることもなく、後輩には慕われる。微妙だけど居心地のいい位置にいる。

この世界にいるんだったら、俺は2番手が最高の位置だと思っている。


「なぁ、和希。お前、もう少し頑張りなよ。そうしたらナンバーワンになれるのになぁ」

準がそっと耳打ちしてきた。

「あはは、そうだよな。もうちょっと頑張んねぇ―と行けねぇな」

にこっと準が口角を少し上げてにやついた。

「でも和希が俺の下でよかったよ」

「どうしてだよ?」

準はトレーにシャンパンとグラスを乗せながら。

「だってお前、俺を引き落とそうとしない奴だって言うのを知ってるから」

そんなことを言い残して彼奴は客の中に消えた。


「わかってんじゃん。準よ」


片岡和希かたおかかずき、ご指名です」


さて、今日も。この2番手ホストが、おねぇ様方を夢の世界にお連れ致します。


「本日は、ご指名戴き誠にありがとうございます。当店ナンバーツゥの、片岡和希かたおかかずきでございます」


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