命燃え尽きるまで 3

 A・ファーレンハイトは対物ライフルを背負い、リボルバーの拳銃を構えて足音を立てずに慎重に前進した。

 マスターIにも彼なりの事情があろうが、敵対する道を選んだ以上は容赦しない。彼女は心に固く決めて歩みを進める。


 数歩進んだ所で、マスターIの隠れている陰から手榴弾が飛び出した。手榴弾は壁に跳ね返って、計算し尽くされたようにファーレンハイトの数m手前に落ちてくる。投擲の名手と言われるだけあって、正確なコントロールだ。


 ファーレンハイトは手榴弾が爆発する前に、早撃ちでそれを破壊した。大口径の50-50の弾丸が手榴弾に大穴を開けて無力化する。


「やるなぁ! その力、味方に欲しかった」


 マスターIは彼女の射撃の腕を称賛して、手榴弾を投げ続ける。ただ無策に同じことを続けるのではなく、二発、三発と同時に投げて対応を難しくする。

 だが、ファーレンハイトの反応速度は少しずつ上がっていく。ついには手榴弾が壁に跳ね返る前に撃ち落とす。暴れ馬の50-50を制御するために、ファニングと呼ぶには乱暴な叩きつけるようなコッキング。それと同時に一発ずつリロードして、弾切れのタイミングを読ませない神業。


「Incredible!! これが最後だよ……っと」


 マスターIは驚嘆と敬意をこめて宣言したが、それが真実かどうか他人には分からない。四発の手榴弾が立て続けにファーレンハイトに向けて投げこまれる。

 彼女が一発目を撃ち抜いた瞬間、二発目が先に爆発した。スタン・グレネードだ。閃光と爆音が彼女の視覚と聴覚を奪う。

 しかし、ファーレンハイトはこれを予想していた。最初に手榴弾を投げられた時点で、スタン・グレネードを警戒していたのだ。グラスの遮光機能が目へのダメージを抑える。音までは防げないが、鼓膜がダメージを受ける前に彼女は全ての手榴弾を破壊した。

 それでもスタン・グレネードの爆音によるダメージは受けてしまう。ファーレンハイトはマスターIが次の一手を打つより先に前進した。爆音のダメージは三半規管にまで影響し、平衡感覚が狂っているが、倒れこみながらも廊下の角に飛び出す。まさかそこまでやらないだろうと誰もが思うことを彼女はやる。先手必勝の信念に基づく執念の行動だ。


 だが、その先にマスターIの姿はなかった。

 ファーレンハイトは本部内で掃討を続けるか、マスターTの元に向かうか、目まいが回復しきらない状態で思案した後に、正面玄関へマスターTを迎えに走った。

 足がふらつき体が傾くと壁に手をついて支える。立ち止まって回復を待っている暇はない。走っている内に自然に治るのを期待する。


 マスターTはここで死ぬつもりだが、彼女は死ぬ必要はないと考えている。

 マスターGの話を信じるなら、マスターBやマスターCは無事に脱出した。皆で知恵を出し合えば、彼が助かる道もあるかもしれないと彼女は期待していた。

 何はともあれ、まずはマスターTと合流して話をしなければならない。万一の事態に備えて、ファーレンハイトはリボルバーに例の弾丸を装填した。

 もしもの時は彼女がA・ルクスにトドメを刺さすのだ……。

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