天地が返る 6
マスターTはさらにマスターRに尋ねる。
「いつマスターFの計画に気づいたんですか?」
「おかしいと感じはじめたのは、一昨年マスターFがA国との共同作戦を提案してきた時だ。それから地道に調査を進めて、マスターFがスカウトしたエージェントの中にA国の政府系諜報機関に所属していた者が複数いたことを突き止めた。組織が血と涙や邪悪な魂との本格的な戦闘に入った後も、私は影で調査を続けた。誰が潜在的な敵で、誰が本当の味方なのかを見極めるために……」
「それでマスターF以外のA国の工作員は誰だったんですか?」
「誰どころの話ではない。創始グループとマスターG、それに君と私を除いた全てのマスターがA国と何らかの関係を持っていた」
マスターRに衝撃の事実を告げられて、マスターTは絶句した。既に組織はマスターFに掌握されているのだ。
ほとんどのマスターやエージェントが彼の手の者ならば、特定の誰かを排除して組織の支配を奪い返すこともできない。
ファーレンハイトは任命式で自分が見た光景を語る。
「それだけではありません。今日の任命式ではマスターEも彼らの中にいました」
「マスターEまで……」
マスターRはいよいよ深刻な表情になる。組織内で最強と言われるマスターEまでもが敵となると、いよいよ戦力の差は絶望的だ。
重苦しい空気になる中で、マスターTはマスターRに問う。
「本当に全員が敵なんでしょうか?」
「どういうことだ?」
「マスターEがA国についたのは、おそらくマスターKのことがあるからでしょう。それとマスターMは元A国の軍人でしたが、私たちに裏切り者の存在を教えてくれました。彼はマスターFの計画を知らなかったんだと思います。だから三人のマスターを裏切り者として殺した……」
「つまりA国の関係者でも事情を知らされていない者や、逆にA国とは無関係でも後から説得された者がいるということだな?」
「はい」
まだ希望は失われていないと彼は言いたかったようだが、マスターRは力なく首を横に振った。
「……しかし、今ごろになってそんなことが分かっても、もう手遅れだよ。私たちが組織に入った時点で、既にマスターFは組織の大半を掌握していた。私には息のかかったA・バールをつけて――」
そこまで言ったところで、彼女はファーレンハイトに視線を送る。
「だから、君たちが両方ともA国とは無関係なのか疑わなければならなかった。幸いにも、その問題はすぐに解決した。本来ならばマスターIにはA・ファーレンハイトを、マスターTには別のマスター候補をあてがう予定だったのだ。しかし、超人であるA・ルクスが新たにマスター候補に加わり、彼女がマスターIの下についたことで計算が狂った。多少予定が変わっても、超人である彼女は確実な味方として押さえておきたかったんだろうな」
なぜマスターIはマスター候補になったばかりの自分をしつこく誘ってきたのか、ようやくファーレンハイトは理解した。彼は女好きというわけでもなければ、本気で彼女の適性を考えていたわけでもなく、全て計算の上で動いていたのだ。
マスターRはマスターTに視線を戻して言う。
「だが、奴らにも誤算があった。君のことだ、マスターT!」
「私ですか……」
「そう、君だ! 君が時空を操る超技術を持っていることは、限られた者しか知らない! それで……どうする?」
「どうするって……」
いきなり尋ねられてマスターTは困惑した。
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