天地が返る 4

「いったい何があったんですか?」


 マスターTがマスターRに尋ねると、彼女は答える前にA・ファーレンハイトの顔を見つめた。


「A・ファーレンハイトも来ていたんだな。全く、君たちは何なんだ?」

「何なんだとは何なんですか?」


 二人の関係を怪しむような問いかけにファーレンハイトは不快感を声に表すが、マスターRは冗談だとも言わず眉をひそめる。


「何って、あれだよ。どうして君がここにいるのかって考えると……」

「どうしてそっち方向に話を持っていこうとするんですか」

「そっちとはどっちかな?」

「……私は組織に追われて、しかたなくここへ逃げ込んだだけです!」

「分かってるよ。君は追い詰められてマスターTを頼った。大した信頼関係だ」


 腹を撃たれた割には余裕が窺えるので、ファーレンハイトは口を閉ざして彼女を無視することにした。

 マスターTが困り顔でそこに割って入る。


「とにかく経緯を説明してください。いや、それよりも手当てが先ですね」

「君の予想しているとおりだよ。私もA・ファーレンハイトと似たような状況だ。他に行く所がなくてね。このけがはこいつにやられた」


 マスターRはA・バールに視線を向けた。


「まさか、そんな!」


 バールが裏切り者とは信じられず、ファーレンハイトは思わず声を上げる。

 二人はエージェントになる前、訓練生時代からのつき合いだ。ファーレンハイトには悪い冗談だとしか思えなかった。逆にマスターRが裏切り者だという方が彼女には信じられる。


「残念だが、事実だよ。彼女もマスターFの手の者だった」

「そんな……」


 衝撃を受けているファーレンハイトをよそに、マスターTはマスターRに問う。


「マスターR、自力でリビングまで歩けますか?」

「無理……」


 彼女は脇腹を押さえて苦笑いした。

 マスターTは彼女とバールを交互に見て、どちらを優先するべきか考える。二人のどちらがより重傷なのか、一目では判別しにくい。


「バールは私が運びます」


 迷う彼を見かねてファーレンハイトは自らバールを抱え上げ、さっさとLBに移動した。


 マスターTはマスターRの脇で膝をついて尋ねる。


「おんぶしましょうか? それともファイヤーマンズキャリー?」

「こういう時は両腕で抱え上げるものだよ」

「はぁ」


 仰向けになる彼女の背中と脚の下に、彼は両腕を通した。


「優しく、そっと、そっとだぞ。こっちはけが人なんだからな」

「はい」

「……良し、良し、いい感じだ。重くないか?」

「軽いですよ」


 先にリビングに着いたファーレンハイトは廊下からの声が耳についてしかたなかったが、無視を決めこんだ。

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