天地が返る 3

 マスターTは小声でつぶやく。


「とにかく今、組織で何が起こっているのか分からないと……」

「もしかして……これがマスターMの言っていたことなんでしょうか?」


 A・ファーレンハイトが思いついたことを口にすると、彼はうつむき両腕を組んで低く唸る。


「確かに彼は言っていた。『自分が殺した三人のマスターは組織を何者かに売り渡そうとしていた』、『他にも裏切り者がいるかもしれない』と。それはマスターFなのか? 売り渡すって誰に?」


 ここでいくら考えていても答えは出ない。


 重苦しい沈黙の中、ドアチャイムが連続で三回鳴らされて、直後にドアが勢い良く叩かれる。


「おい、開けてくれ!! 私だよ、Rだ!」


 その切迫した様子にマスターTは急いでドアに向かった。

 ファーレンハイトも彼の後についていく。


「待ってください、マスターT! ここは慎重に――」


 彼女の忠告を受けて、マスターTは一度振り返り大きく頷いた。彼はすぐにはドアを開けずに、まず問いかける。


「どうしたんですか?」

「どうもこうもない! とにかく開けてくれ、けが人を抱えている!」


 それを聞いたマスターTは再びファーレンハイトを顧みて、一言断りを入れる。


「開けるよ」


 ファーレンハイトは奇襲に備えて密かに腰のホルスターに手をかけた。

 マスターTがロックを外してゆっくりドアを開けると、彼を押し退けるように大人二人分の大きな塊が中に転がりこむ。

 塊の正体はA・バールの腕を肩に回して支えているマスターRだった。


 彼女らは室内に入るや否や前のめりに倒れる。


「はぁ、はぁ、早くドアを閉めてくれ!」


 マスターRは息を切らしながら必死にマスターTに指示した。

 彼女に言われたとおりにマスターTはドアを閉めて鍵をかける。

 一方でファーレンハイトはバールに駆け寄り、屈みこんで彼女に呼びかけた。


「バール、どうしたの!?」


 しかし、バールは気絶していて返事をしない。彼女の右肩と左脚には銃弾が貫通した痕がある。誰かに撃たれたのだ。


 マスターRはその場で上半身を起こして横座りになり、大きなため息を吐いてマスターTを見上げた。


「いやはや、参った、参った。重労働は慣れないというのに」


 よく見れば彼女も右脇腹に被弾している。二人で追手を振り切ってここまで逃げてきたのかと、ファーレンハイトは予想した。

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