そして彼女は
深遠なる陰謀
任命式にて
そしてA・ファーレンハイトが新たなマスターになる日がついに来た。
彼女をはじめ6人のマスター候補は、今日マスターBに任命されて正式に黒い炎のマスターとなる。
早朝の新本部内はいつもと空気が違い、静まり返っている。
ファーレンハイトは任命式の前にマスターTにあいさつをしようと思っていたが、残念ながら部屋に鍵がかかっていて不在だったので、式の後に出直すことにした。
◇
任命式は新本部の会議室で、全てのマスターが見ている前で執り行われる。
――そういう話だったはずだが、A・ファーレンハイトが会議室に入った時、そこにいるマスターはE、F、I、L、N、O、P、Q、Sの9人だけだった。
会議室の机は端に寄せられており、マスターFを中心に他のマスターたちは左右にアルファベット順で扇状に並んでファーレンハイトを迎える。まるでマスターFが全マスターの代表のようだ。
他のマスター候補の姿はない。
何か手違いでもあったのか、もしかして日時を間違えてしまったのかと、焦りのあまりドアの前で固まる彼女に、マスターFが説明する。
「非常事態のため、私がマスターBの代わりに全マスターを代表して任命を行うことになった。他のマスター候補は全員すでに任命式を終えている。後は君だけだ、A・ファーレンハイト」
「非常事態とは……何があったのですか?」
「気にすることはない。ちょっと何人かのマスターの都合がつかなかっただけだ」
「ここでは話せないようなことですか? それとも私には話せないのでしょうか」
彼女が不自然な点を指摘するとマスターIが半笑いで答える。
「急に予定が変わったんだ。君に連絡するはずだったマスターTも体調不良で休んでしまって……。全くしかたのない奴だよ。とにかく式をすませよう」
そう呼びかけられてもファーレンハイトは動かなかった。
多くのマスターが不在だというのに任命式をやっている場合なのかと、まず彼女は思う。この場にいるマスター全員に緊張が見られないのも変だ。マスターTが体調不良で休むこと自体はあり得なくはないが……。
彼女は9人のマスターたちの顔を見る。
不在のマスターはB、C、D、G、R、T。どうしてこの6人がいないのか、彼らの共通点は何か?
そう考えた時にマスターB、C、Dは創始グループであること、マスターGはマスターDに近いこと、そしてマスターRとマスターTが同時にいないことが、彼女には偶然とは思えない。
「A・ファーレンハイト、どうした?」
マスターFに声をかけられた彼女は、改めて9人のマスターたちを観察した。
彼女は攻撃行動を起こそうとしている気配を鋭敏に読み取る。とくにマスターFとマスターIの二人から……。敵意や害意というほど強いものではないが、警戒されていると感じる。
ファーレンハイトはすぐにこの場の全員と戦闘になることを覚悟した。
戦闘任務を主に担当しているマスターはE、I、L、P、Sの5人。
射撃を得意とする彼女の敵となりそうな者は、投擲を得意とするマスターIとオールラウンダーのマスターSのみ。マスターEは帯刀しているが、遠距離攻撃用の武器を持っている様子がないので除外。マスターLとマスターPも特殊な装備での任務が基本なので除外。
全員拳銃ぐらいは隠し持っていてそれなりに扱えるはずだが、今はあえて問題にしない。
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