力への意志 4

 かりそめの連合軍は邪悪な魂の拠点である要塞を完全に包囲しながら、それから二日経っても全く攻め落とせずにいた。ようやく邪悪な魂が本気になって抵抗しはじめたのだ。


 NAの研究者たちが開発した先進兵器の数々は、大国の軍隊にとっても大きな脅威だった。電子機器を完全に無力化するジャマー、機関砲を上回る性能の電子ビーム砲、対戦車弾をも防ぐ堅牢な防護鎧、戦闘機や弾道ミサイルをことごとく撃墜する対空レーザー兵器、そして人間を遥かに超越した身体能力を持つ超人……。


 各国の秘密部隊が後退していく中で、ようやく黒い炎が動き出す。



 無線通信さえも妨害されてしまう中では、黒い炎もまともには戦えない。

 そこでマスターFは二つの切り札を使う決心をした。彼はマスターTとマスターIを黒い炎の後方司令部に呼び戻す。


「マスターTそれとマスターI、君たちに出動してもらいたい」


 しかし、マスターTはA・ルクスが動くことには反対だった。


「A・ルクスを使うのですか?」

「そうだ」

「彼女には荷が重いでしょう」


 その言い方にマスターIが反論する。


「そいつは聞き捨てならないな。彼女もれっきとした組織の一員だ」

「超人の力は体に大きな負担をかけます。まして相手がNAの技術を得た邪悪な魂では激戦は免れ得ません。あなたは彼女がどうなっても良いと言うんですか?」

「そんなことは――」

「だったら、ここは私に任せてください」


 反論する隙も与えないマスターTの強気な発言に、マスターIは圧倒された。

 その場に居合わせて話を聞いていたA・ルクスは不満を、A・ファーレンハイトとA・セルシウスは驚きを顔に表す。

 マスターFは少しの沈黙を挟んで決断した。


「君がそこまで言うなら信じて任せよう。何か助けが必要かな?」

「何もいりません。何とかします」


 マスターTの言葉には強い決意が感じられる。

 ルクスとセルシウスは彼一人で何ができるのかと疑問に思っていたが、マスターFもマスターIも何も言おうとはしなかった。



 その後で一人出撃準備をするマスターTの元にマスターDがやってきた。


「本当に助けはいらないのか?」

「はい」

「……私はマスターBやマスターCほどではないが、君の事情は理解しているつもりだ。どうしても行かねばならない理由があるのだろう。死ぬなよ」


 マスターDの言葉にマスターTは小さく頷く。

 少しの間を置いて今度はマスターTがマスターDに尋ねる。


「一つ気になっていることがあります。邪悪な魂に加担した住民たちのことです。C国政府や軍は彼らを許すでしょうか?」

「……許しはしないだろうな」

「彼らはどうなるんですか? 反逆者として処刑されるなら、私たちは何のために彼らを投降させたんでしょうか? 投降を呼びかける指示は、あなたの自己満足ではなかったと信じています」

「当然だ。私が指示したからには私が責任を持って、C国政府と交渉する」


 二人はお互いに暗黙の取り引きをした。

 マスターTは被支配地域の住民が作戦終了後に弾圧されないようにマスターD自身が必要な行動を起こすという約束で、邪悪な魂を排除する。

 マスターDは邪悪な魂を排除したという結果をもって、C国政府との交渉材料に利用する。

 どの軍も不可能だった邪悪な魂の拠点攻略を黒い炎がなしとげれば、C国政府も要求を聞き入れざるを得ないというわけだ。

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