帰ってきたマスターT 5

 しばし声を失っていたA・ファーレンハイトだったが、彼女は気を取り直して話を続けた。


「マスターAことアーベルと完璧な超人ディエティー、二人の指導者を失い、血と涙は組織としての機能を失いました。生き残った超人たちはゼッドとともに邪悪な魂に合流しましたが、超人たちはもう限界です。もともと超人は長く生きられませんから……。戦わずとも自滅する定めだとゼッドは言っていました」


 マスターTが何も反応しなかったので、彼女は踏みこんで尋ねる。


「それでも……超人を殺しますか?」

「邪悪な魂が彼らを利用しないとは限らない」

「いつかはA・ルクスも……?」

「……彼女が人として生きるなら、何もするつもりはない。何もしたくはない」


 彼も進んで殺しはしたくないのだろうとファーレンハイトは感じる。

 もし彼がもっと冷徹で容赦のない性格だったなら、彼は超人の死を悼むことも、苦悩することもなかった。

 今の彼女は知っているのだ。マスターTが元は平凡な一般人だったことを。


 ファーレンハイトは次の話に移る。


「ディエティーは新たな世界の支配者となるのに、あなたが障害になると言っていました。博士たちがそう言ったのだと。マスターTは何か心当たりがありますか?」

「ない……いや、

「それはどういう意味ですか?」

ある。博士たちは今も変わらず、世界の変革を望んでいるんだ。いや、それは違うな。博士たちはこの世界に興味を持っていない。変革を求めているのは世界の方なのか……」

「……マスターT?」


 何をわけの分からないことを言うのだと、彼女は驚いた。

 マスターTは苦笑する。


「私も博士たちの影響を受けてきたのかもしれない。完璧な超人ディエティーの誕生も、ある意味では博士たちの思惑どおりなんだ。AA計画から続く超人計画の真の目的は、人類が新たな可能性を得ること。ディエティーが超人たちを率いて世界を支配すれば、それはそれで一つの可能性が開かれる」

「しかし、ディエティーは――」

「ああ、私が殺した。私はこの手で人類の可能性を一つ閉ざし、AA計画を自ら否定した。ディエティーには新たな世界の支配者となるがなかった」

「資格……とは?」

「私はディエティーが新たな世界の支配者となって、まともな秩序が創れるのであれば、それでも構わないと思っていた」

「しかし、そうではなかった……?」

「能力的には可能だったと思う……が、それだけではダメなんだ」


 彼の言うことがファーレンハイトにはよく分からなかった。

 それは思想のことを言っているのか、人格のことを言っているのか、それとも別の何かがあるのか?

 ファーレンハイトはもう一人の新たな可能性に言及する。


「邪悪な魂の若頭ジノ・ラスカスガベも、あなたを障害と認識しているようです」

「ジノ……何だって? 誰なんだ?」

「ジノ・ラスカスガベ。今の邪悪な魂の中心人物です」

「首領じゃなくて若頭?」

「はい。邪悪な魂の急速な勢力拡大は彼の意志のようです。その彼があなたを指名して、いつかあなたと彼はを賭けて世界の頂で戦う運命にあるのだと……そう伝えろとマスターGに言ったとのことです」


 それに対してマスターTは何と答えるのか、彼女は緊張して待った。

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