臨時マスター会議 2

 開会の宣言を受けてマスターRが報告する。


「先日のD国における血と涙掃討作戦で重要な事実が判明しました。作戦に参加したマスターは既にご存知でしょうが、行方不明になっていたマスターAが血と涙の構成員として現れ、マスターLの部隊と交戦したのです。この戦闘でマスターLは重傷を負い、彼が率いていた部隊も数人を除いて戦闘不能に追いこまれました。他のエージェントの動揺を避けるため、この情報はこの場で収めて漏らさないようにお願いします」


 A・ファーレンハイトはこの場に自分がいて良いのか、ますます不安になった。しかし、よく考えればマスターRの話は彼女にとって驚くべきことではない内容だ。なぜならあの場に彼女も居合わせたのだから。


 マスターRの報告は続く。


「さらに血と涙は邪悪な魂と行動をともにしていました。両者は緊密な協力関係にあると見て良いでしょう。その邪悪な魂にはマスターMが構成員として加わっていました。このことはマスターDが確認しています」


 彼女がそう言った瞬間、会議室の空気が凍りついた。

 マスターEが凄まじい殺気を放っている。


 ――彼はE国出身の西洋人で組織内では最強と言われる剣術家。マスターGよりは細身だが、片手で太刀を振るえるだけの体格と腕力がある。

 センターに分けた真っすぐなねずみ色の髪から覗く、彼の赤茶色の瞳には生気がなく、いつもうつむき加減で陰鬱な表情をしている。

 寡黙さではマスターGよりも上で、マスターでありながら今のところ上級エージェントはおろか下級エージェントの部下も持っていない一匹狼。戦闘任務に参加することが多いが、その際も単独行動を好む。


 いかなる理由か不明だが彼はマスターMを激しく憎悪していると、この時ファーレンハイトは確信した。


「裏切り者が二人か……」


 そこにマスターFが意図的か無意識か分からない不用意な発言をして、ますます空気が重苦しくなる。

 確かに組織を抜けて敵に回った二人は裏切り者と言えるが、今いたずらにマスターEを刺激するべきではないと全員が思っていた。

 何とか話を元に戻すべく、マスターBがマスターRに続きを促す。


「マスターR、報告を続けて」

「あっ……はい、すみません。ええと、重ねて言いますが、マスターAは血と涙に、マスターMは邪悪な魂に加担しています。マスターAのことは他言無用ですが、マスターMに関しては各自の判断に委ねます。そして、ここからも重要な話です。邪悪な魂はNAエヌエーの研究者の生き残りを組織に迎えたと思われます」


 NAとは何だろうとファーレンハイトは疑問に思った。略称としても多くのものを指すだけに、これと特定することができない。とにかく何らかの属性を表すものだということしか分からない。


 マスターFが苦々しげにつぶやく。


「全滅していなかったのか……」


 他のマスターも揃って深刻そうな顔をしている。とにかく好ましくないことなのだろうとファーレンハイトは理解した。

 マスターRは最後に今後の活動方針を告げる。


「血と涙、邪悪な魂、そしてNAが協調している以上、これらを相手にするのは慎重にしなければなりません。打って出るのであれば、綿密な作戦を立てた上で戦力を惜しまず投入する必要があります。現在、邪悪な魂は他の組織を取りこんで勢力を拡大しています。とにかく邪悪な魂を優先して叩かねばなりません。NAの技術は危険すぎます。私からは以上です」


 彼女の報告が終わると、マスターEがすかさず宣言した。


「邪悪な魂との戦いには私も参加する。誰が反対しようと絶対にな」


 かなり強引なことを言っているのだが、他のマスターは誰も彼を止めようとはしなかった。

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