臨時マスター会議 3

 再びの重苦しい沈黙から、またもマスターFが発言する。


「前の話を蒸し返すようで恐縮だが、そろそろまじめにA国との協調について考えてもらえないだろうか? マスターRの言うとおり、早急に邪悪な魂を叩かなければ手がつけられなくなる。いや、もう我々の手には負えなくなっているのかもしれない」


 彼は全員を見回して意見を求めた。急速に勢力を拡大している犯罪組織が新興のテロ組織と手を組んでおり、さらに元マスターが二人も敵に回っている状況で、手段を選んでいる場合ではないというのは正論だ。

 誰もが他人の顔色を窺う中で、マスターCが最初に賛同する。


「私もA国と手を組むべきだと思う。正直なところ、我々だけで連中に対抗するのは難しいだろう」


 これにマスターDが反論した。


「マスターC、君は私たち戦闘部隊の実力を信じていないのか? A国の手を借りなければ、私たちでは連中に勝てないと、そう言いたいのだな?」


 前回もマスターCとマスターDは意見が合わなかったが、二人は仲が悪いわけではない。ただ組織の幹部として、お互いの立場から必要な意見を言っているのだ。

 マスターDの発言は同じく戦闘部隊を抱えるマスターIやマスターSへの牽制になる。黒い炎は小規模な組織ながらも、裏の世界で重要な役割を果たしてきた。古参のマスターやエージェントほどそうした意識が強い。A国の手を借りるということは、自分たちの実力不足を認めるということに他ならない。


 マスターDは続ける。


「私たちの部隊は歩兵同士の戦いであれば、装備においても練度においても、どの国の軍隊にも劣るものではない。そこへ戦車や戦闘機を持ち出すというのであれば、それはもはや私たちが活動できる領域外のものだ。もし邪悪な魂がこれまでの活動範囲を超えて、国家のようなものを目指すのであれば、それこそA国は私たちの手を借りるまでもなく戦争に踏み切るだろう」


 これにマスターFは反論し返した。


「一つ重要なことを忘れてはいないか? マスターAとマスターM、それにNAの連中はどうする? 我々の手で方をつけるべきではないのか」

「そのとおり! だからこそ、A国の手は借りないと言っている。マスターE、そうだろう?」


 マスターDに呼びかけられたマスターEは沈黙したまま静かに頷いて、マスターFを睨んだ。

 マスターDは彼のマスターMへの憎悪を利用したのだ。

 前回もそうだったが、創始グループ内でも意見が分かれることに、他のマスターは口出しをしにくい。


 マスターBが空気を読んで場を取りなす。


「この会議の目的は飽くまで情報の共有とその扱いに関してです。A国との共同作戦の話は次の定例会議にしましょう」


 それを受けてマスターFはおとなしく引き下がったが、まだまだこの話題は荒れそうな気配だった。

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