邪悪な魂 3
A・ファーレンハイトが船倉から出ようとしたところ、入口から足音が聞こえた。彼女は声を潜めてマスターTに話しかける。
「マスターT、誰か来ました」
それを聞いた彼は耳を澄まし、素早くコンテナの陰に身を隠しつつ、無言で入口を注視する。
ファーレンハイトも同様に物陰に潜み、謎の銃はとりあえず置いて、11mmのリボルバーの拳銃をホルスターから抜いて警戒した。
現れたのは全身を覆う真っ黒なプロテクターを装着した大柄な人物が1人と、濃い紫のローブを着た人物が2人。
「邪悪な魂の構成員だ」
マスターTが小声でファーレンハイトに教える。
彼女は情報としては邪悪な魂のことを知っていたが、実際に目にするのは初めてだった。
「どうします? 打って出ましょうか?」
「いや、あのプロテクターの男は手強い。私が相手をする。君は隙を見て先に脱出してくれ」
マスターTの予想外の頼もしい発言にも、ファーレンハイトは信用がならなかった。
「相手は三人です。サポートが必要でしょう」
「なくても、どうにかなるさ」
彼はまるで口癖のように「どうにかなる」と言う。
二人が話し合っていると、プロテクターを装着した人物が突然大声を上げた。
「誰かいるぞ! 出てきやがれ!! 出てこなけりゃぶっ飛ばす!!」
「ダイスさん、何言ってんですか! ここには大事な積荷が……」
「うるせえ、黙ってろ! オラッ、さっさと出てこい!! カウントダウンだ!! 5、4、3――」
仲間の制止も聞かず、ダイスと呼ばれたプロテクターの男はエコーのかかった声で喚き散らしながら、背中に負っていた大口径のガトリングガンを抱えるようにして構える。装備しているプロテクターはパワードスーツか、それともサイボーグ兵士なのか、とにかく常識外れの怪力だ。
このままではコンテナごと攻撃されかねない。
「しょうがないな」
敵の呼びかけに応じてマスターTがコンテナの陰から出ると、すぐにガトリングガンが火を吹く。
「そこかっ、ハチの巣だー!!」
あまりに予想外の行動だったので、ファーレンハイトにはマスターTを止めることができなかった。
暗闇に砲火が明かり、激しい発射音と着弾音が船倉中に響き渡る。
ファーレンハイトは銃撃に巻きこまれないように身を引くことしかできない。
マスターTが見るも無残な肉片になっていることは想像にかたくない。まさか彼は撃たれないとでも思っていたのか、軽率すぎて彼女は嘆くこともできない。
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