マスター会議 3

 その後はとくに意見が出ることもなく、マスター会議は閉会した。

 やがて自分たちもマスターとなって意見を述べる立場になるのだと思うと、A・ファーレンハイトは身が引き締まる思いだった。

 エージェントの身分では言われたことだけをやっていれば良かったが、マスターともなればそうはいかないのだ。銃の扱いが上手いというだけでは通用しない。



 部屋に戻ったマスターTは、A・ファーレンハイトに質問する。


「ファーレンハイトくん、A国と協力するという話を君はどう思う?」

「ある程度は協力しても良いと思います」

「どの程度?」

「物資の支援を受けるくらいでしょうか」

「それですむなら良いんだが……」


 マスターTはA国に対して不信感を持っている。

 A国は超大国。まともに当たれば、組織としてさして大きくもない黒い炎は相手にならない。

 圧倒的な実力差を背景に援助を受けたら、それにかこつけてあれこれと口出しされる可能性が高い。最悪使い走りのような扱いをされるかもしれない。そうなったらエージェントの犠牲は逆に増える。


「政治の話は嫌だね」


 マスターTはうんざりした口ぶりで小さく首を横に振る。

 組織と組織の話になれば、嫌でも政治が絡んでくる。

 マスターFが持ち出した話は「共同作戦」と「協調体制の構築」だ。つまりA国側は単なる依頼手と請負手以上の緊密な連携を期待している。

 A・ファーレンハイトもA国の指揮で動くことまでは認められない。


「そう言えば、マスターBがおっしゃっていましたが……。この組織の理念とは何ですか?」


 沈黙が続き、ふとファーレンハイトは先の会議でのマスターBとマスターFのやりとりを思い出した。

 ずっと一エージェントとして働いてきた彼女は組織の理念を知らない。今まで誰かに教えられたことも聞いたこともなく、ただ与えられた任務をこなすだけと割り切っていた。

 マスターTも首を捻る。


「分からない。私も聞いたことはないが、何のために組織を立ち上げたのか、それを創設以来の理念というなら、もしかしたら……。いや、推測でものを言うのは止めておこう」


 それでも心当たりがありそうだったので、ファーレンハイトは期待して構えていたが、もったいつけられただけで終わり、がくっと肩を落とした。

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