マスター会議 3
その後はとくに意見が出ることもなく、マスター会議は閉会した。
やがて自分たちもマスターとなって意見を述べる立場になるのだと思うと、A・ファーレンハイトは身が引き締まる思いだった。
エージェントの身分では言われたことだけをやっていれば良かったが、マスターともなればそうはいかないのだ。銃の扱いが上手いというだけでは通用しない。
◇
部屋に戻ったマスターTは、A・ファーレンハイトに質問する。
「ファーレンハイトくん、A国と協力するという話を君はどう思う?」
「ある程度は協力しても良いと思います」
「どの程度?」
「物資の支援を受けるくらいでしょうか」
「それですむなら良いんだが……」
マスターTはA国に対して不信感を持っている。
A国は超大国。まともに当たれば、組織としてさして大きくもない黒い炎は相手にならない。
圧倒的な実力差を背景に援助を受けたら、それにかこつけてあれこれと口出しされる可能性が高い。最悪使い走りのような扱いをされるかもしれない。そうなったらエージェントの犠牲は逆に増える。
「政治の話は嫌だね」
マスターTはうんざりした口ぶりで小さく首を横に振る。
組織と組織の話になれば、嫌でも政治が絡んでくる。
マスターFが持ち出した話は「共同作戦」と「協調体制の構築」だ。つまりA国側は単なる依頼手と請負手以上の緊密な連携を期待している。
A・ファーレンハイトもA国の指揮で動くことまでは認められない。
「そう言えば、マスターBがおっしゃっていましたが……。この組織の理念とは何ですか?」
沈黙が続き、ふとファーレンハイトは先の会議でのマスターBとマスターFのやりとりを思い出した。
ずっと一エージェントとして働いてきた彼女は組織の理念を知らない。今まで誰かに教えられたことも聞いたこともなく、ただ与えられた任務をこなすだけと割り切っていた。
マスターTも首を捻る。
「分からない。私も聞いたことはないが、何のために組織を立ち上げたのか、それを創設以来の理念というなら、もしかしたら……。いや、推測でものを言うのは止めておこう」
それでも心当たりがありそうだったので、ファーレンハイトは期待して構えていたが、もったいつけられただけで終わり、がくっと肩を落とした。
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