マスター会議 2

 A・ファーレンハイトを含めたマスター候補たちは動揺する。目の前で組織の将来に関わる大きな決定が下されようとしているのだ。

 しかし、あくまで候補にすぎない彼女らに決定権はない。

 そもそもネームプレートが配られていないので、黙ってなりゆきを見守ることしかできない。


 マスターBの呼びかけに他のマスターたちは自らの意思を示す。

 賛成はC、F、I、L、P、Qの6人。反対はD、G、Tの3人で、E、N、O、R、Sの5人は棄権した。

 最後にマスターBが自分のネームプレートを伏せる。


「賛成が6、反対が4、棄権が5……。何か意見のある方は挙手をお願いします」


 マスターBがそう言うと、マスターCとDが同時に手を上げた。

 マスターCはE国出身、濃い金髪を七三に分けて鼻ひげを蓄えた、一見したところは人の好さそうな西洋人のおじさんである。彼は組織内の設備や備品の管理を担っている。

 二人はお互いの顔を見合い、マスターDが先を譲られて発言する。


「我々はあくまで影の存在だ。どの国とであれ、正式に協力することは難しいと考えているし、そうすべきではないと思っている」


 続いてマスターCが発言した。


「血と涙と邪悪な魂との抗争は、いずれも激戦が予想されます。マスターもエージェントも人員は有限で貴重な資産です。浪費せずにすむのであれば、それに越したことはありません」


 どちらの発言にも理がある。創始グループ内で意見が分かれることに、他のマスターたちは口を出しにくい。

 そこでマスターBはマスターTに話を振った。


「マスターT、あなたの意見を伺いましょう」

「わ、私ですか……」


 マスターGはマスターDの元部下なので、彼に意見を合わせたとしても不思議はない。それは周知の事実だ。

 では、マスターTが反対する理由とは何か?

 全員が彼の発言に注目する。


「私もマスターDと同じ意見です。今後A国と対立するかもしれないことを考えると、あまり接近するのはどうかと……」

「対立する予定でもあるのかな?」


 不意にマスターIに横槍を入れられ、マスターTは虚を突かれて沈黙した。

 不規則発言をマスターBが咎める。


「マスターI、途中で割りこむような発言は控えてください」

「Sorry」


 マスターIは肩をすくめて小声で彼女に謝る。

 小さなため息をついたマスターBは改めて全員を見回し、結論を述べた。


「賛成が過半数を占めず、また反対者が賛成者の半数を超えていることから、本件は話し合いを続ける必要があると判断します」


 A国との共同作戦の話は協議を継続して保留することとなった。

 納得いかない様子のマスターFはマスターBに尋ねる。


「マスターB、君はなぜ反対なんだ?」

「この組織には創設から一貫した理念があります。マスターF、それを忘れたわけではないでしょう?」


 彼女に真っすぐ見つめられ、マスターFは沈黙した。

 ……これにてこの話は打ち切られる。

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