魔王と勇者は仲が良い

青野アオイ

第1話 勇者は盲目

 魔王と勇者。両者は長きにわたり戦ってきた。

 その戦いは一対一の邪魔者のいない戦い。

 その一幕のお話。


      ~魔王城にて~


 「魔王! 今日こそ決着を着けてやるわ。」


 「勇者よ、お前には無理だ。これまでの戦いは全て私の勝利に終わっている。

お前が勝てる要素など無い!」


 「あら? それはどうかしら? 今の私はあなたに勝るカードを手に入れたわ! これで私の勝利は間違いなしね! 受けてみなさい!」

 

 勇者は床にカードを叩きつける。

 

 「な、なんだとぉー! こ、これは!?」


 「そうよ! これこそ私のカードよ! ロイヤルストレートフラッシュ!!」


 「ば、バカなー! この場面でロイヤルストレートフラッシュだとぉぉお!?」


 魔王の手からカードがパラパラと零れ落ち、ショックで床に突っ伏したまま起き上がれない。


 「か、か、勝ったわ~! これで連敗記録を158敗で止めたわ! 歴史的勝利よ!!」


 「くそ、まさかこの私の連勝記録が158勝で止まるとは――」


 魔王と勇者はこの日カードゲームで勝敗を競っていた。

 勇者の戦歴 1勝158敗

 魔王の戦歴 158勝1敗

 勇者は159回目で初の勝利を手にする事ができた。


 魔王と勇者。二人は長きにわたり戦ってきた。

 そしていつからか互いを意識し始め、

今では勇者は魔王城から割りと近い場所に住み、日々魔王の元へ足を運んでいる。

 魔王と勇者。二人はいつからか恋仲となっていた。

 それは誰にも知られてはいけない秘密。

 秘密を重ねる度に二人の距離は近くなっていった。


 「さぁ魔王! 私が勝ったんだから1つ言うことを聞いてもらうわよ! 覚悟しなさい!」


 「いいだろう。 お前にはさんざん楽しませてもらったからな。1度くらい聞いてやろう」

 

 誤解を与えてはいけないので弁明すると、

魔王は勇者に対して、いかがわしい事や、やらしい事などはしていない。

 もちろんあんな事やこんな事なんかもしていない。

 ただ単にからかって遊んでいただけ。

 

 「で、私に何をさせるのだ?」


 「明日私の買い物に付き合いなさい」


 「は? なぜだ?」


 「このところずっと戦ってたじゃない!

たまには息抜きだって必要よ!」

 

 「確かに。休息は必要なものだ。

いいだろう、買い物とやらに付き合ってやる」


 「じゃあ、明日の朝起こしに来るからちゃんと起きるのよ。あなたは寝起き悪いんだから」


 「強者は多少の事では動じぬものだ」


 「明日ちゃんと起きなかったら、喉に聖剣を突き刺すからね?」 

 

 「恐ろしい事を言うな! ・・・・・・まぁお前ならやりかねんな。今日は全身に強化結界を張り巡らせて寝るか」


 「無駄よ。私、結界破り得意だし。聖剣を使えばあなたの結界なんか一瞬で終りよ」


 「今日は早く寝るとするか。そうしなければ永眠する事になるな」


 「じゃあ明日ね」


 「待て、勇者。そこまで送ってやろう。

長く戦っていたせいか日が落ちてきた。

この辺りは魔物も多くいるからな。危険だ」

 

 「・・・・・・そ、そう?って言うか私、勇者なんだけど?」


 「勇者であったとしてもお前は女だ。

それに万が一怪我でもしたら明日の買いものにいけないだろう?」


 魔王からの気遣いに頬を赤くしてうつむく勇者は素っ気ないふりをするも扉へと向かう足は自然と駆け足になる。


 「気遣いは無用よ! 魔物が現れたら聖剣の力を解放して滅してやるわ!

それより明日ちゃんと起きるのよ!」


 「分かった分かった。 私は約束はちゃんと守る魔王だ。――お前限定だがな・・・・・・」


 「そ、そう言う恥ずかしい事を言うなっ!

それに魔王が勇者を守ったらおかしいでしょ!? まったく・・・・・・」


 「そうか、それはそうだな。 では気を付けて帰れ。――また明日、な」


 「――うん。また明日」


 互いに見つめ合い、そして手を振る二人。

 二人は恋仲ではあるが、その事は秘密である。 バレたら色々大変で面倒になる。

 勇者は魔王城の扉を開け、もう一度魔王に手を振る。バタンと扉が閉じ勇者は帰っていった。

去り際の表情はとても嬉しそうなのを見て、魔王はこう呟く。



 「人間の言葉でたしかこういう言葉を聞いたな。"恋は盲目"とはこの事か」

 

 

 

 


 

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