第二章 王都グランウェル
第24話 到着。王都グランウェル
「アレクさん。よろしくお願いします」
「おう! 任せときな! 俺が護衛についてりゃおめぇの命は保証されたようなもんだ」
自身の身の丈程ある大剣を担ぎながらアレクさんは言う。
そこらの冒険者数人を護衛として雇うよりよっぽど心強い。それほどにSランク冒険者というのは別次元の強さを誇っているらしい。
荷物を馬車に詰め込み、あとは出発するだけとなった。
「リナさん。行ってきます」
「はい! ホープさんの無事を、我々ギルド職員全員でお祈りしています! お気をつけて」
リナさんは屈託のない笑顔で言った。
ユーリさん、そして、リナさんのおかげでとても心が救われた。
この二人がいなかったら果たして俺の心はどうなっていたのか。考えるだけでも恐ろしい。
俺とアレクさんは荷馬車に乗り込み、俺の故郷とも言える街、【ルカナ】を出発した。
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
ホープとアレクの乗った馬車が見えなくなった頃——
「言っちゃったわねぇ、ホープさんとアレクさん」
「……」
「リナちゃん……」
リナは涙をこぼしてた。
ポロポロととめどなく溢れる涙を拭うこともせず、もう見えなくなってしまった荷馬車のあった場所を見つめている。
そんなリナを、セリカは優しく抱きしめる。
「大丈夫よ、リナちゃん。ホープさんはきっと無事で、この街に帰ってくるわ」
「うん……うん……」
「よく笑顔を崩さなかったわねぇ。偉い偉い」
「うん……うん……」
セリカがリナの頭を撫でる。
リナとセリカの二人は孤児としてアレクに拾われてから今日までずっと一緒だった。
もはや姉妹同然なのだ。
お互いの考えてることなんて考えなくても分かる。
「さ、仕事しましょ仕事。アレクさんまた居なくなっちゃったから業務が増えるわねぇ。ね、ギルマス代行さん?」
「……そうね」
リナはようやく涙を拭うと、セリカへ笑みを向けた。
こういう時のセリカはいつも頼もしい。
リナが弱ってる時はいつも敏感に察知して、支えてくれるのだ。
「でもその前に……お茶しない? 実は新商品のお菓子を極秘裏に入手しましてぇ〜」
「ダメよ」
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
「アレクさん。俺たちはどこへ向かっているんですか?」
「王都グランウェルだ」
「王都グランウェル? となり街とかじゃないんですか?」
「わりぃな。ちとこっちの都合で進路を変えさせてもらった。ホープに会わせたい奴がいるんだ」
「俺に?」
てっきり隣街までの移動くらいに思っていたのだが、どうやら王都へ行くらしい。
元々行くあてもないから構わないが、「俺に会わせたい奴」とは一体誰なんだろう。
「まあ会ってからのお楽しみだ。それより、王都まで7日間程かかる。道中マモノも出るから気ぃ抜くなよ?」
「はい。分かりました」
そうだった。マモノが出現するんだった。
やはり突然襲ってくるのだろうか。
俺が対面したマモノは、見た目こそ恐ろしいが特に危害を加えるようなことはされなかった。
そんなことを考えていると、休憩ポイントに差し掛かり、馬に水をあげたり、簡単な軽食を食べた。
「変だな。マモノの気配がしねぇ」
「……? それは良いことでは?」
「いや、良くねぇ。マモノは人間が少数なら容赦なく襲ってきやがる。だがここら一帯はまるでマモノの気配がしねぇ。不自然だ」
現在、のどかな森の中の小道で休憩している。
動物や虫の声は聞こえるが、俺にはマモノの気配というのをまるで感じない。
「出来ることならマモノに遭遇せずに王都へ到着できれば良いですね」
「まあなぁ。遭遇しないに越したことぁねぇが……」
それから特にマモノが出現することなく、休憩も終わり、再び馬車が走り出した。
出発してから一週間が経った。
道中マモノではなく野盗に襲撃されたがアレクさんが蹴散らした。剣の一振りで斬撃が飛ぶ、という現象を初めて見て少し興奮した。
そして、マモノが出現することなく目的地である王都が見えてきた。
「見ろ。あれだ」
「立派なお城ですね」
「無駄にでけぇだけだ」
確かにデカい。
初めて城というものを見たが、さぞやご立派な王族がお住まいなんだろう。俺とは無縁の存在だ。
馬車は王都グランウェルの門へ着き、検閲を受ける。
「止まれ。何用だ」
「ああ? 旅行だよ旅行」
「ん……? アレクさん!? こ、これは失礼しました。お通り下さい」
アレクさんの顔パスのおかげですんなり通過出来ることが出来た。
元S級冒険者でギルドマスターだと色々顔が効くんだな。
無事門を通り抜け、視界に広がる光景に思わず「うわぁ〜」とヨーアみたいな声を出してしまった。
「まあ驚くのも無理はねぇな。こことは違ってルカナはのどかな街だったからな。あの街しか知らねぇんじゃ新鮮な光景だろ」
「はい。凄いです」
綺麗に舗装された道路に、簡素な造りでは無いオシャレな家々が立ち並び、街行く人もどこか気品が感じられた。
そして、まるで権力を象徴するかのように
「俺は荷物下ろしてウェンデル支部に挨拶に行っから、ホープは宿でもとっておきな。昼頃ウェンデル支部に来てくれ」
「はい。護衛していただいてありがとうございました!」
「いいってことよ」
アレクさんを見送り、俺は宿屋で部屋をとるためにさっそく行動したいところだが、いや困った。広いな。
王都ウェンデルは想像以上に広かった。
闇雲に探しても見つかりそうにも無い。
誰かに聞いた方が早いな。
幸いにも人はたくさんいる。
俺は辺りを見渡し、噴水に腰掛けている褐色肌の青年に目が留まった。あの人にしよう。
「あのう、すみません」
「ん? 何? お兄さん」
「近くに宿屋さんはありませんか?」
「……宿屋ね、あるよ。案内しようか?」
「ありがとうございます」
良かった親切な人で。
ここの治安は良いのかもしれないな。
俺は青年にと共に宿屋へ向かった。
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