vs, ボクらのファイナルバトル Round.5

 月面大決戦から一時間いちじかん後──。

 ボク達を乗せた宮殿母艦は、地球への帰路に着いていた。

 操縦制御コントロール機能は、クルロリがハッキング処理によって解放してある。もはや〝ジャイーヴァの脳波干渉〟とは完全に切り離された。

 超耐圧ガラスりのキャノピー越しに地球が迫ってくる。成層圏がモヤ渦巻うずまき、青い海原には深緑にくすんだ紋様──テレビ映像なんかでお馴染みの情景だけど、実際に間近で見ると圧巻だった。

 ボク達は横並びに、その美しさへと見入みいる。

「地球は青かった……か」

 ジュンが感傷的につぶやいた。

 どっかの誰かが言っていた──地球は、宇宙のエメラルド……と。

 その形容は間違っていると思う。

 地球はサファイアだ。

 エメラルドはグリーンで、青くない。

 この若々しい青さを、もっと強調するべきだ。

 だって、この青さは〝生命力いのちの青〟だもん。

 ワクワクとウキウキが詰まった青だもん。

 ボクは思う──青春の〝青〟も、こういう素敵な輝きでいたい。

『あと三分後には大気圏へ突入する』

 室内にクルロリの声が響いた。

 現在、彼女は『メインコントロールルーム』へとこもって、この艦の操縦に専念している。

 ハッキング解放したとはいえ応急処置だから、現状ではそうした仕様で運用するしかないらしい。

「けれど、大丈夫かしら?」

「何がさ? ジュン?」

「これほど巨大な〝浮遊宮殿〟が出現したら、地球上が大パニックにならない?」

 ジュンが漏らす懸念けねんへ、ボクは気楽に無問題モーマンタイ回答。

「心配しなくても平気だよ。きっとみんな『 ● ルス!』って、自己完結するから」

「……地球人類、みんながみんな〝ジ ● リファン〟じゃないからね?」

『星河ジュン、心配無用。この艦には、すでに〈グリフィンシステム〉を発動させてある』

「グリフィンシステム? 何よ、それ?」

『周辺空間を湾曲させる事によって光子屈折率を人為的に操作し、視認不可能とするテクノロジー。ある種のステルスシステム』

「要は疑似透明化ってわけ?」

 半信半疑なジュンを納得させるべく、ラムスが次世代テクノロジーを引き合いに出した。

「地球科学でも軍事目的で光学迷彩技術〈プレデターシステム〉というものが研究開発されていますわ。それの上位版と考えればよろしいかと』

 その興味深い超科学に、ボクのオカルト好奇心が頭をもたげる。

「あ! もしかしてUFOが消えたり現れたりするのは、それのせいなのかな?」

『座標固定滞空の場合は、そう。飛行中に消えるのは、光速移動による二次的効果』と、クルロリ。

「ハイパーゼッ ● ンの場合は?」

『それは知らない』

 無下に流されたよ。

 いつものクルロリツッコミだけど、何故だかなつかしかったりする。

 何故だろう?

 本人が目の前にいないせいかな?

 あるいは、大仕事をやり終えた終息感からだろうか?

日向ひなたマドカ、星河ジュン……もうすぐ、お別れ』

「は?」「ふぇ?」

 唐突な重大発表に、間抜けた声がユニゾる。

『アナタ達を地球へ送り届けたら、そのまま私は旅立つ』

 ああ、このせいか。

 おそらく『虫の知らせ』ってヤツだわ。

「旅立つ? 何故さ?」

『この艦には、ラムスやモエル同様の〈外来型ベガ〉がおよそ六〇体も搭乗している。彼女達を地球へ降ろすのは、さすがにリスクが多過ぎる。かといって、見捨てる事もできない。ならば、この母艦を人工居住地として機能させるのが最善策。そのまま無害な新天地を探す』

「箱舟ね……さながら」

 感慨をいだいてつぶやくジュン。

『そして、ジャイーヴァ──彼は精神的成長がおさなぎる。言うなれば〝大人の知識と肉体を得た子供〟のような状態。今回の件は、そうした幼児性がもたらした騒動。彼には正しい成長を導き見守る〝保護者〟が必要』

「だから、キミが、この艦を導くって事?」

『そう』

「で、ボク達とは、お別れ……と?」

『そうなる』

 性急だな。

 もしかして、思い立ったら即行動派?

 さっきの特攻劇の一幕といい。

『そうは言っても、地球上には、まだまだ〈ベガ〉が潜伏している。日向ひなたマドカ、これからもアナタは〈ベガ〉と交戦する可能性が高い。よって、私がさずけた〈パモカ〉や〈PHW〉は、そのまま使用して構わない。多少の助力じょりょくにはなる』

「あ、いいんだ? ってか、返却の事は完全に失念していたけどさ」

「だけど、使えるの? あなたがいなくても?」

『星河ジュン、問題ない。〈パモカ〉は軍事通信衛星等も利用できる』

 怖ッ!

 軍事衛星ハッキングって、バレたら国際指名手配モンだよ!

 もはや女子高生JKが持ってていい代物しろものじゃないよ!

「けれど〈PHW〉は? いずれ、ヘリウムカートリッジだって底を突く。そうしたら、ヘリウムバーニアも使えなくなるんじゃないの?」と、ジュンから鋭い指摘。

「パーティーグッズのじゃダメなのかな?」

 ボクの安直な提案に、彼女は「声を変えるヤツ? アレじゃ圧が弱いわよ」と首を振った。

 その懸念けねんを聞いたクルロリが、事後対策アフターケアを提示。

『ヘリウム自体は地球上にもある。それを採集圧縮すればいい』

「え~? じゃあ、定期的に採集へ行かなきゃいけないの? メンドクサッ!」

『問題ない。胡蝶宮こちょうみやシノブがいる』

「……は?」

 唐突に適任者として名指なざしされ、当人は豆鉄砲状態。

 しばを置いて──「はぁぁぁ~~~~ッ?」──全員の注視に気付き、ようやく我へと返る。

「ちょっと待て! 私に〝ヘリウム採集係〟をやらせようというのか!」

『この中で最も活動範囲が広いのは、単独飛行能力を有するアナタ』

「……うっ」

 あ、絶句に固まった。

「ココココイツは! 何もしないのか!」

 露骨な動揺に、ラムスをゆびさした。

 さては巻き込もうとしてるな。

 けれど、アマいよ。シノブン。

「協力したいのは山々ですけれど、生憎あいにくわたくしは忙しい身でして」

「貴様、自分だけ逃げる気か!」

「いいえ、滅相もない。ただ、そんな暇があったら、料理の腕前を追究しなければなりませんので……ヒメカのために」

「そんな理由が通るか!」

「あら? でしたら、貴女あなたがやって下さいますの? 毎朝毎昼毎晩の炊事洗濯を?」

「……うぐっ」

 にっこり温顔を飾って黙らせた。

 ホラね?

 ラムスのしたたかさは、超一級だもん。

『にへへ ♪  大丈夫だよぉ?』と、並び飛ぶ〈ジャイアントわたし〉からホワホワ通信。『わたしなら、木星からでも採取できるもん ♪ 』

「そ……そうか……うむ、そうだな。確かに〈A3……いや〝モエル〟の方が適任だな。うむ、彼女なら・・・・安心だ」

 大役免除の流れにシノブンが安堵あんどした直後──。

『一緒に頑張ろうね ♪ 』

「私も行くのかッ?」

 免除ならず(笑)!

 惜しかったね、シノブン?

「仮に採集できたとしても、超圧縮の方は? あのサイズにまで圧縮できるって〝宇宙科学〟でしょう? 私達〝地球人〟では無理よ?」

 ジュンの杞憂きゆうに、クルロリは答える。

『それも心配ない。私が〈宇宙航行艇コスモクルーザー〉建造に使った工房がある。ラムスやモエルなら、そこの設備で生産可能』

「そこって、まさか?」

 ボクの不安を易々と肯定する朴念仁ぼくねんじん

『そう、たちばなモーターズ──顧客率が低迷して如何いかにも潰れそうながらも、何とか虫の息をつないでいる摩可不思議な個人経営店』

 ……重々かさねがさねゴメン、たちばなのオヤッサン。

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