vs, ボクらのファイナルバトル Round.2

「では、何故〝日向ひなたマドカ〟へと固執していた?」

 クルロリがさらに問い詰める。

「それは、彼女が〝特別・・〟だからだ。私が生体改造をほどこしたわけではない、見知らぬ・・・・ベガ・・〉だからだよ。おまけに、絶滅種族〈アートル〉だ! そんな稀少な〈ベムゲノム〉は、私とて入手できん!」

「その情報は承知している。日向ひなたマドカを生体改造したのは、ほかならぬだから。我々が知りたいのは、その先」

「コレクターなら押さえておきたいだろう! 限定品レアモデルは!」

「誰が〝イルクジG ● ョック〟かぁぁぁーーッ!」

 間髪入れずに顔面への鉄拳をブチ込んだ!

 うん、右腕のみ部分鋼質化を発現したので、文字通り鉄拳・・だ!

 今度ばかりはもだえる間もなく、変態グレイは「きゅう」とオチる。

「このまま宇宙空間へ放り出してやろうか! コイツ!」

 ジュンに背後から羽交はがめにされながら、ジタバタジタバタと憤慨ふんがいに荒れ狂い続けた!

「ちょ……マドカ! 落ち着きなさい! 一応、貴重な情報源なんだから!」

「情報を所持していなかったら、ただの〝ド変態ゲスグレイ〟だよ!」

「情報を持っていても、その通りですけれどね」と、他人ひとごとで構えるラムス。

 と、おもむろにクルロリが、ボクの正面へとやって来た。

 そして、ボクの顔と自分のてのひらを交互に眺める。

「な……何さ?」──ふにん──「ひゃあああぅ!」

 いきなりまれた!

 むほど無い胸を!

「落ち着いた?」

 コクンと小首をかしげるクルロリ。

「落ち着くかッ!」

「おかしい? 過去の経験データにもとづくならば、この方法で興奮がしずまるという話だった」

「何処のどいつだ! んなガセネタ吹聴ふいちょうしたのは!」

 無垢な瞳が、不可思議そうにボクをゆびさす。

 ……あ、そっか。ボクか。

「事実、星河ジュンが興奮状態へとおちいったさい日向ひなたマドカはこうしていた。でも、効果が無い……おかしい?」

 ワキワキする手をジッと観察し、熟考にふけっていた。

 この、やっぱ朴念仁ぼくねんじん

「どう? 自分がされた気分は? 少しは反省した?」

 勝ち誇ったかのような口調くちょうで、ジュンがたしなめる。

「うん、こんな感じだった」

 ──ふにょん!

「ひゃあぁぁん!」

 よし! いい反応!

 やっぱむなら、ボクのAよりもジュンのFだよね。

「舌の根も乾かない内から、どういう了見だーーッ!」

「おぶぅ!」

 ビンタ炸裂!

「流す! 天の川に流す!」

「星河様、落ち着いて下さい! 一応、貴重な戦力せんりょくですから!」

戦力せんりょくを所持していなかったら、ただの〝セクハラオヤジJK〟よ!」

 ラムスから羽交はがめにされ、今度はジュンがジタバタジタバタ。

 朦朧もうろうとする意識の中でボクは至福しふく反芻はんすう

「うう……有り難やぁ、育乳大明神様ぁ」

「まだ言うか!」

 収集つかないかしましさでいろどられた直後、機体がズンッと振動!

 一瞬いっしゅん感じる浮遊感──それは一息ひといき遅れで顕現けんげんした!

 ボク達の身体からだが、床から浮いた!

 いや、ボク達だけではない!

 その場に在る固定されていない全ての物体が、宙に浮いていた!

 つまり、無重力の体現だ!

 反して、周囲の環境は轟音を上げて振動している!

 この異常事態に、ボク達は状況を察した。

 機体が……降下している!

「ななな何さ? コレ?」

「おそらく反重力制御システムが機能停止した。このままでは月の重力に引かれて落ちる」

 プカプカとただよいながら示唆しさするクルロリ。

 うん、カワイイ。

 ってか、アレ?

 いま、トンデモ発言しなかった?

 逆襲のシャ ● 大佐みたいな事言わなかった?

「まさか……我々われわれが強攻的に突入した事が原因で、システムが破損したのでは?」

 シノブンの指摘に、プカプカクルロリが見解を述べる。

あるいは考えられる可能性が、もうひとつ。タイミング的に、ジャイーヴァの意識が途絶えたと同時に機能停止におちいった。そこから推測するに、この母艦のコントロールシステムは、彼の思念とダイレクトリンクしていたのかもしれない」

「あなたのせいかーーッ!」

「おぶぅーーッ!」

 渾身こんしんの逆恨みビンタが炸裂!

「確かに〝彼個人の支配王国ハーレム〟ならば、理に叶った防衛策プロテクトですけれどね」と、他人事ひとごとのラムス。

「クッ……」歯噛みを零しつつ、シノブンは手近なコントロールパネルへと取り付く。「マズイな……制御不能だ! このままでは月面へと墜落するぞ!」

「早くジャイーヴァを目覚めさせないと!」

 ジュンの的確な指摘に、ボクは取るべき行動を起こす。

「そそそうだね! オイ、起きろ! 変態グレイ!」

 黒マントの胸鞍むなぐらつかんで激しく揺らした!

「う……う~ん……」

「オイッてば!」

長濱ながはま ● るねるねってるか~い……」

 幸せそう寝言で何を口走くちばしってんだ? コイツ?

「起~き~ろぉぉぉ~~ッ!」

 さらに激しく揺らした。

「う~ん……あ……」おお、いよいよ目覚めるきざし──と、思いきや。「ハムうどん、一丁! へい、お待ち! 萌えーーッ!」

「何だーーッ! オマエはーーッ!」

 大外おおそとりで投げ捨ててやった!

「きゅうぅぅ……」

 あ、しまった。

「ジャイーヴァの脳波がアルファ波からデルタ波へと推移。さらに深い意識消失へおちいったと思われる」

 クルロリの分析を受けるやいなや、今度はジュンがボクの胸鞍むなぐらをガクガクガクガク!

「何やってるのーーッ! あなたはーーッ!」

「だってだってだってコイツがぁ~~!」

 ツッコミどころ満載なんだもん──とは言えなかった。

 さすがに今回の鬼気迫る叱責しっせきは、そんな事をうったえられる雰囲気じゃない。

「どうすんの! このままじゃ、わたし達全員お陀仏だぶつよ! この艦に搭乗している〈ベガ〉諸共もろとも!」

「星河ジュン、それは正しくない。日向ひなたマドカは〈全身鋼質化〉すれば、ある程度の衝撃でも生存が可能。彼女だけは生き残る可能性が高い」

「この薄情者ぉぉぉーーッ!」

「クマムシッ?」

 ハリセンビンタが横っ面へと炸裂!

 理不尽だ!

「クッ、やはりダメだ! どうしてもプロテクト突破できない! ジャイーヴァ殿の意識回復が必要だ!」

 操縦制御に悪戦苦闘するシノブンが、焦燥と悲観をくちにする。

『任せて! マドカちゃん!』

 パモカから聞こえる救いの声!

 モエルだ!

 キャノピーガラス越しに宇宙空間を見ると、この母艦に取り付く〈ジャイアントわたし〉の勇姿が!

『フルパワーで押し戻す!』

 パモカディスプレイに映し出されたコックピットで、凛とした表情のGカップが決意表明!

「できんのかッ? んな事ッ?」

『……分からないけど、やってみる!』

「ア ● シズの落下は始まっているのだぞ!」

『はぇ? ア ● シズ?』

「もう! 観てないの? 『逆襲の ● ャア』ぐらい!」

『う……うん』

「観とけよぅ? 『ガ ● ダム』シリーズの名作だぞ? あ、今度みんなで『ロボアニ鑑賞会』でもやる? オールナイトで?」

「どうでもいいわーーッ! この局面でーーッ!」

「アストナァァァーージッ!」

 ジュンからの後頭部ハリセン!

 しかも、質量設定高出力!

 勢いよく慣性に吹っ飛ぶボク!

 そして、無重力空間を溺死できしぜんと浮遊した……チーン♪

 到底、絶体絶命な局面とは思えないにぎやかさに、モエルは軽く「クス ♪ 」と微笑びしょうを含む。

『やっぱり大好き ♡  マドカちゃん ♡ 』

 どんなタイミングでこくってんだ。

 このストーカー娘。

『……ねえ、マドカちゃん?』

「痛ててて……ふぇ? 何さ?」

『その女子会──』

「うん?」

『──行けたら行くね?』

 明るく向けた微笑ほほえみが、通信シャットアウトでディスプレイから消えた。

 ってか、絶対来い!

 片っ端からヲタ趣味に洗脳してやるから!

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