vs, フラモン Round.3

 屋上にて数時間経過──。

 鉄柵てっさくしから眺める情景は、すっかり夕焼け空に染まっていた。

 フラモンは飽きずに、すってんころりんを続けている。

「で、どうしますの? このまま籠城ろうじょうしていてはらちもありませんわよ? それに一般生徒達の恐怖とストレスは計り知れませんし」

「ラムス、食べちゃえば?」

 サラリと提案したら、恨めしそうな視線が返ってきた。

ひとを〝大食い女王フードファイター〟みたいに言わないで頂けます? そもそも、あれだけの鉄塊てっかいを何故食べなければいけませんの。美味おいしくもなければ栄養価も無いのに」

「鉄分豊富」

「……その白銀顔プラチナがおで言われると、妙な説得力がありますわね」

「でもさ、ボクの事は食べようとしたじゃんか?」

「食べようとしたのではなく、単に溶かそうとした・・・・・・・だけですわ。ある程度戦闘不能になれば、廃棄物として吐き出すつもりでしたし」

「ああ、ガムみたいに」

「ええ、ガムみたいに」

他人ひとさまをガム扱いすんなーーッ!」

「御自分で比喩なされたんじゃありませんか」

「んじゃ、それでいいよ! ラムス、や~~っておしまい!」

「どうしましたの? 急に奇妙な口調で? 何か悪い物でも拾い食いされました?」

「もう! そこは『アラホラサッサ!』と敬礼しなきゃ!」

「……知りませんわよ、バカ」

 辟易へきえきと顔をらすし。

 ってか最後、何か言わなかったかしら?

「ああッ? 冷たい! ジュンと違って冷たい! ツッコミすら無い!」

 すると、空々そらぞらしい温顔をつくろって、こう返してきた。

「まあ、星河様はスゴイですわねえ? こんなバカバカ・・・・しい事にもめげずに、いちいちツッコんでバカ・・りいらして? わたくしには到底真似できない事ですわ。恐縮はバカ・・ります。このおバカさん♪ 」

 ……ラムス、それツッコミ・・・・じゃなくて毒舌・・だ。

 何回『バカ』って織り混ぜたか知らないけど、とりあえず、これだけは指摘しておこう。

「最後、何て言ったーーッ!」

「さて?」

 オイ、ペロッと舌出してしてそっぽ向くな。

 この性悪しょうわるEカップ。

「もう! とにかく、さっさと食べちゃってよ!」

「で・す・か・ら! 無理ですわよ!」

「何でさ?」

貴女あなたは〝タワー盛りのレバ刺し〟を二〇皿・・・も食べられまして?」

「食べるに決まってるじゃん」

「……はい?」

「超お得だよ? それ?」

「ハァ……さとそうとしたわたくしが馬鹿でしたわ」

「何だよぅ? そのいきは?」

 進展の見えない押し問答が続く中、フラモンがすってんころりんをやめた。

 内股に座り込んでジッとする様は、途方に暮れてほうけているようにも見える。

 そして──!

「ふ……ふぇぇぇ~~ん!」

 泣き出したし。

 デッカイ図体して、子供みたいに泣き出したし。

 ってか、大音量でウルサッ!

「ふぇぇぇええん! ふぇぇぇええん! えぐっえぐっ……ふぇぇぇええん! ふぇぇ……げほっげほっ!」

 泣き過ぎてせてやんの。

 ってか、さっきまでカタコト電子ヴォイスだったろ! オマエ!

 まったく、何なんだコイツは?

「あらあら、泣かせてしまいましたわね?」

「う……うん……泣かせちゃったね」

「どうしますの? マドカ様?」

「いや、どうするって言われても……どうしよう?」

 心底困惑した。

 そりゃそうだ。

 こんな展開、誰も予想してないよ?

「マドカちゃんがイジメるぅ~~! うわ~~ん!」

 あのバカッ!

 何をおおっぴらに名指ししてんのさ!

「マドカ? 誰?」「もしかして、あのセーラー服アンドロイドの名前かな?」「確かに、ちょっとやりすぎかもな」「限度が分かってないんだよなぁ~限度が……」

 ほら見ろ!

 校内中が騒然となったじゃんか!

 ってか〝正義の味方プリ ● ュア〟扱いから〝ガキ大将ジャイ ● ン〟扱いに評価転落ッ?

「あれ? そう言えば、ウチのクラスのマドカっち、いなくね?」「え? 巻き込まれた?」

 一部が気付きだした。

「ウチらのグループは、あんま交流無かったけどさ? 憎めないヤツだったよな……」「うん、騒がしかったけどね……」「マドカっち、成仏してよね……南無南無」

 死亡説まで出始めたしッ?

 ってか、オマエら! 諦めんの早過ぎッ!

「えぐっえぐっ……マドカちゃんが……マドカちゃんが……うわ~~ん!」

マッド母ちゃん・・・・・・・が、どしたってーーーーッ?」

 ボクはわざと絶叫し、強引な方向修正をはかる!

「え? マッド母ちゃん?」「お母さんに怒られたって事?」「ってかさ? 母ちゃんがマッドって事は、DVって事じゃね?」「あの子、可哀想かも……」「マドカっち、成仏してよね……南無南無」

 うしっ! 作戦成功!

 そして、最後のヤツ! 後日、絶対に探し出す!

「ひっく……ひっく……」

 フラモン、ゲンコツで涙ぬぐってるし……。

「ったく! しょうがないなあ!」

 頭をボリボリきつつ、ボクは腹を決める。

「あら? 行きますの?」

 動向を察したラムスが、分かっていながら声を掛けてきた。

「だって、ほっとくワケにもいかないじゃん。泣いてるんだし」

 その返答を聞いて、ラムスは「クスッ」と微笑びしょうを含む。

「どこまでも……ですわね」

「ふぇ? 何がさ? どっかの線路? それとも『スー ● ー戦隊』のシリーズ数?」

「さて?」

 またはぐらかしたな、性悪しょうわるEカップメイド。

 ともかくボクは、鉄柵てっさくを乗り越えてグラウンドへと飛び降りた!

 もちろん、向かうのはフラモンのトコ。

 ツカツカと歩む中で──ずごしっ──後頭部に投擲攻撃が命中して撃沈……。

「誰だーーッ! ボクにゴミ箱投げつけたのはーーッ!」

 ガバッと復活して校舎陣営に猛抗議!

 すると、雨霰あめあられとばかりに物品が投げられてきた!

「これ以上イジメるなーーッ!」「可哀想じゃないッ!」「少しは反省しろーーッ!」

「アブねッ! アブねッ!」

 目についた物を片っ端から投げてくる!

 ゴミ箱──黒板消し──掃除バケツ──机──イス──鉄アレイ──────鉄アレイッッッ?

「おぶんッ!」

 顔面直撃!

 完全鋼質化ボクじゃなかったら死んでるだろッ! コレッ!

「オマエらーーッ! どういう了見だーーッ!」

「いい加減、許してやれよ!」「そうよ! 泣いてるじゃない!」「オマエには血も涙も無いのか!」「鬼! 悪魔! セーラーウ ● トラマン!」

 ……ブーイングの嵐だし。

 完全にアウェイ化してるし。

 掌返しだし。

 ってか最後のヤツ、武内 ● 子先生と円 ● プロに謝れ!

「別に取って食うワケじゃないよッ! 話を聞くだけだよッ!」

「あ、そうなん?」「何だ? じゃあ、いいよ」「さっさと帰ってもらってよね」

 ……やっぱ現金なのな、オマエらJK

 ともかく、ボクは気を取り直してフラモンの前まで歩き進んだ。

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