第一章 夢という名の現実
第一話
蒸し暑く、生温い風が吹くある夏の日のこと。
俺こと黒ノ宮 旬師(くろのみや しゅじ)は高校の教室の自席にてうなだれていた。
今日は金曜日だが時間帯的に夜の7時半である。何故こんな時間に一人で、しかも電気をつけていない教室にいるのか。理由はとてつもなく簡単で下らないことだ。
前日に親友と電話の無料通話にてオールしたからである。
そこから学校の1限から7限まで耐えたものの、HRが終わってからやっと帰れると気を抜いて目をいったん閉じてしまったのだ。そして今に至る。
幸いな事にまだ外部活の人らが活動していてその音が聞こえてくることにより静寂による孤独感はないがあと三十分ほどで終わりだろう。
もしもあと四十分ほど寝ていたらどうなっていたことか、想像したくない。
とにかく今日は帰ろう。立ち上がろうとして椅子をずらすと何かに当たった。同時に短いうめき声が聞こえた。暗い教室に自分一人かと思いきや得体のしれないものの存在に気づいた瞬間、背筋が凍った。
俺が硬直している間にその”何か”は立ち上がり、俺に抱き着いてくる。
その行動により俺のSAN値がごっそり減った気がした。漏らしそうなのをあと一歩のところまでこらえて、その抱き着いてきた”何か”を引き剥がす。
そうすることでやっと正体が分かった。
その正体は、不満そうな顔をして涙ぐんでいる少女だった。
何故俺に抱き着いていたのか理解に苦しむが、今のままでは暗いので電気をつける。
すると少女もどきが口を開いた。
「椅子をぶつけて起こすなんてひどいのです…」
「なんだお前だったのか。良かった、見ず知らずの女の子が抱き着いてくるなんて非常識な事態にならなくて」
「いくら旬師君でもあんまりなのです」
目の前にいる口調が特徴的な少女もどきの名は日針島 那乃(ひばりじま なの)という。見た目は白髪ロングで小柄な少女なのだが、実際は男である。
声もかわいいので多分言われなければ初見は分からないだろう。
俺がさっき寝ていた原因もこいつだ。でもなんで俺の椅子のそばで寝ていたのだろうか。まぁ、話がつながると面倒だしさっさと帰ろう。
「夜も遅いし早く帰るぞ、那乃も早く準備して」
「まずは謝るのが先なのです!」
「あー、うん。ごめんなさい」
「しっかり謝れて旬師くんは偉いのです。ご褒美にハグしてあげるのです」
那乃は俺に近づいて抱き着いてくる。しかも、えへへなんて言うものだから本当に男なのか疑いたくなる。
俺の理性が揺さぶられるが耐える。那乃の髪からするシャンプーの甘い香りが揺さぶりを強くするがとにかく耐える。相手は男だ落ちつけと何回も念じる。
これ以上はなんかきついので引き剥がして冷静を保つ。
するとやっぱり那乃は不満そうな顔をする。那乃が俺に好意を寄せているのは周知の事実だが、俺はノンケだ。だからこそ那乃による視覚情報の理性攻撃が辛いのだけども。
那乃と俺のバッグを一緒に持ち、先に教室を出る。
「早くしないとおいてくぞー」
「ま、待ってなのです~」
律儀なことに那乃は教室の電気を消してから俺を追いかける。
しかし、同居しているのによく耐えているなと自分を褒めて貰いたいものだ。
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