幕間 そして物語に加速が掛かる
アラヤとゴモリーはビルの屋上で、まだ少しだけ語らっていた。
「あそこの人間達は、無事だと思うか?」
「恐らくは大丈夫。暴れるだけ暴れたら素早く消えて、今度はその場に居た人間達に悪魔の恐怖を広めさせる……それがアガレス達のやり方だから」
「成程な。恐怖に
アガレス一派を始めとして、人間の精神に関心を示す悪魔は多い。
アラヤの傍に居るゴモリーもそうだ。彼女は彼女の考えの
「ええ。でも、これからは恐怖の感情だけが高まる訳では無くなるわ」
「ん?」
ゴモリーは優しく微笑みながら、こう語る。
「だってアラヤ、今回は貴方の存在も知れ渡る筈だもの」
「……あー、そういえばそうか」
「そうよ。……きっと貴方のファンだという人間も、この先は現れるわ」
「ええ? いや、俺みたいなのを人間が気に入るとは思えないけどな。てかそんなの居たらかなりの変わり者だろ」
「数は少ないかもしれない。でもその分貴方の強い味方になってくれるに違いない。私には分かるのよ、ふふっ」
何も悪魔だからといって、必ずしも人間に危害を及ぼす種族な訳では無い。
彼女は、ゴモリーは、アラヤの精神の強さに惹かれ、その躍動を心から願っているのだ。
アラヤが悪魔アスモデウスの力を継いだばかりの時も、彼女はそれを使いこなせるようにと半年間の修行の場を用意した。
……かつては闇に紛れていた悪魔の存在が、今は当たり前に人間に知られている。
もう五年も前から奴等は大々的に、その姿を見せているのだから。
人間の価値観の多様化に依って、光と闇の境目までもが希薄になった事は、悪魔出現の一つの要因だ。
しかしそれ自体を不幸な事だと決め付けるにはまだ早いのである。
ここから更に、闇の中に在ってギラつきを放つ彼――アラヤの物語が語られていく事になるのだから。
人間と、そして悪魔の間に……。
※
情報は
部屋のパソコンでは、上がったばかりの悪魔関連のネット動画を漁り。
そして充電ケーブルをぶっ挿した携帯端末では、気になった悪魔関連の情報を調べる。
それが夕方帰宅後のリョーコの日課だった。
「あー、レライエだ。この悪魔ってアップされる率高いなーホント」
高くはないが綺麗に通る声、しかし口調はやけに軽い。
前髪はややぱっつんだが、全体的には癖の有る黒髪が肩に掛かるように伸びている。
リョーコは十七歳だ。
大学には行く気が有って、勉強もするが、しかし良いルックスをしているのに、通っている高校で彼氏を作る気は微塵も無い。
「――あーーーーっ! あー! あっあーーーーーーっ!!」
パソコンの画面に映った、悪魔レライエと向かい合う……白を基調としながら赤の斑模様がアクセントになったカッターシャツを着た青年の姿を見た時に、リョーコのテンションはおかしくなった。
「あーーーー!」
急いで携帯端末のお気に入り写真アルバムを開く。
「……うん、やっぱりあの
その写真に写っている男は、まだ髪が短いがパソコン画面の青年と顔が瓜二つだった。
リョーコは動画に食い入る。
「あ、おああああああ、えっえっ!? えっ!! 死、死ぬ死ぬ、死んじゃう! いあいあいあいあいあ! ちょ、そんなの見せられたら、わ、私が死ぬってーーー!!」
もし今家に親が居たならば、うるさいと怒鳴られてしまっていたに違いないが……。
「あーーーーー、うあっ!? おおおおお、お! ぶ、ぶらっど・ばあすと? はうあぁ! か、かっけぇ、尊いぃー……!! あー、あ、あぁアガレスまで…………って、その女ぁっ! 私からその御方様を奪ってったあの女だーーーーっ!!」
もし親が居たとしても、リョーコは叫ぶのをやめなかっただろう。
「……はぁ、はぁ、はぁ…………おえっぷ……」
これ以上無い
「……とにかく、とにかくやっと見付けたわ。半年間、長いようで短いようで、やっぱり長かった」
握り拳を作りながらそう言って、壁にハンガーで掛けていた――ゴシックロリータ風な衣装へと視線を移す。
「あの御方様に相応しい格好、考えて、磨いてきたわ。この半年間、私だって無駄に過ごした訳じゃないって所を見せてやるっ!!」
……リョーコは動画に映った青年アラヤに、かつて出逢って心酔し、その乙女としての道を全力で踏み外した女だ。
しかし彼女の心の色めきの強さは、他の同年代の女に決して負けはしない。
――第三話へと続く――
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