2番目とは上からか下からか

土田一八

ジョニー2番目の位置の意味を知る

 ベトナム戦争真っ只中のとある米軍基地。アメリカ陸軍に徴兵で入隊したジョニーはベトナムに派遣されて来てから既に半年が経過していた。しかし、いつもブルーパー(M79擲弾発射器の愛称。いわゆるグリネードランチャーの事)を扱う援護の担当で、分隊の先頭を歩くポイントマンを志願しても分隊長である軍曹に却下され続けていた。仲間に相談してみてもなぜかサッパリ要領を得ない。だが誰も腰抜けだと思っていなかったが、ジョニーは腰抜けと思われたくないので、懸命にポイントマン志願を続けていた。


 ある日、ジョニーは軍曹に思い切って質問してみる事にした。


「軍曹殿!質問してもよろしいでありますか‼」

 ジャングルの前線に出撃する直前、ジョニーはビシッと軍曹に敬礼して訊ねる。

「何だジョニー。出撃前のクソ忙しい時に…後にしろ‼」

 軍曹はメンド臭そうにジョニーをあしらう。が、ジョニーは引き下がらない。

「何で自分はポイントマンに選ばれないのでありますか⁉」

「うるさい!グダグダ言ってないでさっさと出撃の準備をしろ‼」

 軍曹はジョニーを追い払おうとしたその時。

「軍曹殿」

 軍曹の側にいた副分隊長の伍長が何やら軍曹に耳打ちをする。

「わかった。ジョニー。ジャングルに入ってから教えてやる」

 軍曹は態度を変えてジョニーに理由を教える事にした。

「ありがとうございます!軍曹殿‼」

 ジョニーは満面の笑みで軍曹に敬礼をした。

「分かったらさっさと出撃の準備をしろ」

「イエッサー‼」



 ジョニー達はヘリに乗って前線のジャングルに向かう。任務はパトロールだが、ベトコン勢力が南下して来る事を阻止するのが目的の戦闘パトロールだった。1回のパトロール期間は3日であるが、その間はずっとジャングルの中を歩き回る過酷なものだった。

 分隊はポイントマンを先頭にブルーパーを持つ援護のジョニー、機関銃手、分隊長、無線手、小銃手がゾロゾロ続く。

 ジャングルの中に潜む敵はベトコンだけでなく、所々仕掛けられているトラップはもちろん熱気と湿気、ヘビ、蟻、蛭といった自然との戦いでもあった。

 分隊が行軍しているとベトコン狙撃兵の奇襲を受ける。


 パン!


 ビシッ!


 乾いた銃声の後、弾はジョニーの頭の上をスレスレ通過し、背後の木の幹に着弾した。

「敵だ!伏せろ!」

 敵の銃撃が激しい。敵弾がうなりを上げてジョニー達を襲って来る。

「反撃しろ‼」

 軍曹が怒鳴る。


 ドドドドド!


 ジョニーの隣ではM60が鈍い金属音を立てながら掃射を浴びせる。ジョニーも敵のいる方向にグリネードをぶち込む。後ろにいたM16を持った小銃手達も射撃を開始する。


 ドーン!


 ジョニーが放ったグリネードが炸裂すると敵からの銃撃はぴたりと止み、味方の一方的な銃撃になった。

「撃ち方止め‼」

 味方の銃撃もピタリと止まる。

「よし、伍長は3人連れて前進。ジョニーとエリオットは掩護しろ」



 その後、追撃と捜索を行う。それが終わると軍曹は分隊を小休止させた。

「ジョニー。チョット来い」

 軍曹はジョニーを呼びつけた。

「イエッサー」


 少し離れた所で軍曹はジョニーに話をする。

「さっき最初の襲撃の時、お前の頭の上を敵弾が通過しただろう?」

「イエッサー」

「それがお前を援護役をやらせている理由さ」

 すると伍長もニヤニヤしながらやって来た。

「はあ?話の筋が良く分からないのでありますが…」

「お前の身長は?」

「5フィート1/4であります」

「そうか。敵のソ連製狙撃銃は身長170㎝の頭に命中する様に造られている。だから微妙にずれてジョニーの頭に命中しないのだ」

 軍曹はジョニーに身長を質問した後理由を説明した。

「そして奴らは2番目の兵士を必ず狙撃する」

 伍長が補足説明を入れる。そこまで言われてジョニーもやっと気がついた。

「それって…」

「ああ。部下を戦死させない為さ。お前の低い身長はその役に立っている。感謝するぞ」

 軍曹に感謝されてジョニーは勲章をもらう事よりも嬉しかった。


「俺の身長がみんなの命を守っている‼」


 それからジョニーはポイントマン志願をぱたりと止めた。後日その理由を仲間から聞かれた。

「最近ポイントマンを志願してないが、何かあったのかい?」

「俺には援護が一番合っているって軍曹に言われたんだ。しかも感謝までされた。俺の低い身長にな。だから除隊するまで2番目にいるつもりさ」

 ジョニーは晴れ晴れとした表情で胸を張って答えた。


                                  完

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2番目とは上からか下からか 土田一八 @FR35

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