第2話 3人でのパーティー

『やったな。

 俺も散々、反対されたけど認めさせたぜ。』

 アッシュの顔は腫れて、自慢の丸盾も凹んでいた。

 家の前で、親子で大立回りしたのは、聞いている。

 小さな街なんだから噂なんて、すぐに広まるんだから。


「でも、アッシュの親は冒険者になる事には反対してなかったんだから、旅立ってから、勝手にアタッカーになればよかったのに。」

 僕が、そう言うと


『あっ!………』

 今更、気付いたと言う風に驚いていた。

 そんなアッシュのバカが付く程の正直さは好きだけどね。


「まぁ、2人共認めてもらえたんだし、気が変わる前に行こう!」


『おう!』

 僕らは、早速とばかりに旅立つ事をきめたのに


『ちょっと!何、2人で盛り上がってるの?誰か忘れてない?』

 仁王立ちで僕らの前に立ち塞がったのは、この街を出る前に乗り越えなきゃいけないラスボスがいた。

 出来れば、回避したかったのに。


「えっと………。」

 僕が何を言えばいいのかと言い淀んでいると


『何を言っても無駄よ。行くなら私も行く。絶対行く。じゃなきゃ行かせない。』

 目の前の女性が、言い出したら聞かないのは知っている。しかも、たちの悪い事に僕やアッシュより強いときたら、言う事を聞くしかない様に思う。


「ねぇ、考え『考え直さない。』…。」

 僕の言葉に被せる様に言って、仁王立ちのまま不動だ。


『はぁ~。オヤジさんは?』

 アッシュは、半ば諦め気味の様子。


『勿論、論破したわ。』

 ドヤ顔している。

 多分、捲し立てる様に言い負かしたのだろう。ご愁傷さまです。


『パッ、パーティーのリーダーはコウなんだ。コウに聞いてくれよ。』

 アッシュは、簡単に僕を売った。

 受け流すのが、流石に上手い。


「ユウナなら、引く手あまたでしょ?」

 僕も諦めたけど、確認だけしておく。


『貴方たちだけじゃあ、心配じゃない?

 私がフォローするわ。幼なじみの生存率を上げる最適解でしょ?』

 ユウナは、僕とアッシュの保護者として同行を決めたみたい。

 頼もしくはあるけど。


『それで、いつ行くの?今日?明日?置いていこうとしても無駄だから。

 そんな事したら、1人で追い掛けて行ってやる。』

 ユウナなら、遣りかねない。いくら、僕とアッシュよりも強くても、1人で街から出るなんて容認出来ない。一緒に行くしかないみたいだ。


「明日の早朝を予定してるよ。僕らは準備なんて、殆ど必要じゃないからね。」

 僕もアッシュも、バックパックに荷物は詰めてある。

 まぁ、最初の目的地は隣街だし、歩いても5日で着くんだ。それほどの荷物でもない。


 ーーーーー→

 まだ、星が瞬いて、大きな月が沈もうとしている時間。

 僕らは街の門に集まった。


『リーダー。仕切りなさいよ。』

 もう、ユウナがリーダーすればいいのに。


「んっ、ごほんっ、よしっ!じゃあ、隣街に向けて出発するよ。忘れ物はない?準備はいいね?」

 2人に確認すると、黙って頷く。


「晴れの門出だ。一旗挙げて帰って来よう!」

『おうっ!』

『えぇ!』

 僕ら3人だけの冒険は、この日に始まった。


 ーーーーー→

『なぁ、何も起こらないぞ?』

 街か旅立って、早くも3日目。

 何もかも起こらないのが、一番いいのにアッシュは、何か起こって欲しいらしい。

 今日も快晴で、気持ちのいい風がそよそよと吹いている。

 1日目は、日暮れに合わせて宿屋に着いたので、そこに泊まった。

 2日目は、他の冒険者パーティーと馬車を引いた商人たちと一緒にキャンプ。

 盗賊はおろか、魔物の一匹すら出なくて、ただの散歩の様な歩み。

 ユウナなんて、歩きながら石を拾うと紐の様な物を使って、物凄いスピードで飛ばしていた。

 こんな攻撃方法もあるんだと驚く飛ばしていた共に、ユウナには何でも武器にしてしまう恐ろしい女の子だと改めて思う。

 そんな僕らの横をまた、馬車が通りすぎた。これで、何度目だろう。これを見てるから、余計にアッシュはイライラしてるのかもしれない。


「あと2日で着く。予定通りだ。

 街で冒険者登録して、依頼を受ける。

 何て、順風満帆なんだ。」

 僕の言葉にも反応を見せない2人。

 もう、リーダー心が折れそうだよ。


『お待ちかねのが、来たよ。』

 不意にユウナが言うと、もう臨戦態勢に入っている。

 アッシュは、スルスルと前に進み出る。

 僕は、予め造ってあった部品を組み立てた。準備に時間が掛かるな。


 そうしている間にも魔物との距離が詰まる。

 大きな猪が2頭。

 大猪も、こちらを敵と認識した様だ。

 頭を低くして、こちらに突っ込んできた。


『やらせるかよっと!』

 丸盾を構えるとガッチリと受け止めるが、アッシュは、そのまま後ろへ押されている。


『格好の的だね。』

 アッシュが止めている猪ではなく、後ろから迫る猪へ、さっきの紐で石を飛ばしたユウナ。

 その石は、拳大の大きさ。

 それが、猪の額に当たると砕け散った。

 間髪入れずに前に出たユウナは、猪の鼻から細い剣を突き刺していた。


『汚い……。』

 あっという間に大猪を仕留めたユウナの感想は、それだけ。

 その頃に、やっと組み立て終わった僕は、命を吹き込む。


「ふっ。」

 息が掛かると動き出したゴーレム。

 その大きさは、前とは比べ物にならない。

 でも


『チョロチョロ邪魔。』

 アッシュに足蹴にされて転ぶゴーレムは、アッシュの腰程度の大きさしかなかった。


 アッシュは、ガッチリと受け止めていた大猪を横へ反らすと、反対の盾からギミックを動かし、剣を出す。


『これで終わりだ!』

 反らした大猪の首へ刃を突き入れる。


『まぁまぁね。』

 僕の活躍もなく、初戦闘は終わった。

 もしかしなくても、僕はお荷物なんではないだろうか?


 それから街に着くまで、魔力を消費するのが分かっているのに、ゴーレムに慰めてもらい続けた。

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