僕は|クレイマー《粘土細工師》……のはず

@koooum

第1話 冒険者になるって決めたんだ

親父オヤジがウルセェのよ。盾職になれって。教えられるてるのは、受け流しだぜ?やっぱ、冒険者と言えば剣士だろ?

 こう、ズバッと魔物をブッた斬る!

 冒険者の花形だぜ。』

 目の前で、立派な丸盾を腕に着けたまま剣を振る仕草をしているのは、アッシュ。僕の幼なじみだ。


「分かるよ。でもアッシュはいいよ。冒険者になれるんだから。

 僕なんて、職人だよ?しかもクレイマー粘土細工師だよ?

 街の中だけで終わりだよ。僕も冒険者になりたいのに。」

 俯く僕にアッシュはバツが悪そうにしながらも


『お互いに不満タラタラだよな……。』

 その点はアッシュに同意する。親は、どうして子供の将来を決めてしまうんだろう?

 頭ごなしにクレイマー粘土細工師になれ。クレイマー粘土細工師になれって。

 でも僕にだって、考えがある。


『ねぇ、僕は冒険者になるよ。考えてた事があるんだ。それに、練習だって繰り返した。やれる……はず。』

 僕はアッシュに宣言した。誰かに言わなきゃ、その思いが消えてしまいそうだったから。流されるままに職人になるだろうから。


『おっ、お前、本気か?クレイマー粘土細工師が、どうやって?』

 アッシュは驚いているけど、それは仕方ない。

 学校と父さんからの技術の受け継ぎの毎日を過ごしてたのを知ってたからだ。


「まぁ、見ててよ。」

 僕は、ポケットから小さな粘土の塊を取り出すと少しだけ練る様にして、柔らかくした後で、手早く形を整えていく。


『人形??』

 それを見て、アッシュは何をしているのか分かってはいない。当たり前だ。ここまでは、ただの粘土遊びと変わらないんだから。でも


「ふっ。」

 置いた粘土人形に向かって、何も乗っていない掌から息を吹いて、何かを飛ばす様にした。


『何した?何がしたい?』

 アッシュは、プチパニック。頭がおかしくなったとでも思ったのかも。

 でも、そのすぐ後で、違う意味でパニックを起こした。


『なっ、何だ?何で動くんだ?』

 アッシュの目の前には、動き出した粘土人形。

 器用に体操をしている。


「命を吹き込んだんだ。魔術だよ。

 これをゴーレムって言うんだ。」

 僕が屈んで手を出すと、その掌の上にゴーレムが乗った。


『いつの間に、こんな魔術を?

 それより、すげぇよ。この力を使えば、冒険者にだってなれるぜ。すげぇ。』

 興奮しながら、僕の掌の上のゴーレムを突っついている。


「うん。

 父さんの技術は、凄いと思う。それに尊敬もしてる。だから、父さんから受け継いだ技術を生かして、冒険者になりたかったんだ。

 僕は後衛に下がるけど、ゴーレムを何体か用意すれば、前衛を務められる。」

 少し自信がなかったけど、アッシュは認めてくれた。自信を持っても良さそうだ。


『そうか。コウが冒険者か……。』

 呟く様に言ったアッシュは、何かを考えた後


『よしっ、決めた。俺もやるぜ。

 でも、只の盾職になるつもりはない。』

 アッシュの丸盾から、短い剣が飛び出してきた。


『これ見てくれよ。親父オヤジは受け流しの技術ばっかりしか教えてくれないからさ。

 でも、親父オヤジの技術は、すげぇと思う。だから、受け継いだ技術を捨てずにアタッカーになるにはって考えて、行き付いた答えだ。』

 舞う様に腕を振るアッシュの動きは、まだ拙いと僕でも思う。でも、これからは伸びるんだろう。

 アッシュなんだから。


『俺たち、一緒の事を考えてたんだな。

 さすが、俺のパーティーだぜ。』

 アッシュは、眩しい位の笑顔で右手を出してきた。


【パーンッ】


 ハイタッチをした後で、僕らは硬く手を握る。

 これからの冒険に夢を膨らませて。


 ーーーーー→


『バカ野郎!何が冒険者だ!お前がなれる訳ねぇ!

 それにクレイマー粘土細工師の何が気に入らねぇ?』

 家に帰って、思いを伝えた。

 案の定の結果だけど。


「僕にだって、夢があるんだ。

 ずっと冒険者になりたかった。

 世界は広い。色々な物を見て、色々な人に触れ、色々な事を経験したい。その為の努力もした。」

 そう言って、アッシュに見せた様にゴーレムを造って見せた。


『おまっ、お前、いつの間にゴーレムの技術を?』

 父さんは、驚いている。

 でも、それ以上に僕も驚いた。

 ゴーレムは、喪われた魔術ロストマジックと言われて、知る人も居ない技術のはずなのに。


『とっ、とにかくダメだ。冒険者になんて、なさせねぇ。』

 驚きはしたけど、父さんは許してはくれない様だ。


『ねぇ、許してあげましょう?それに、貴方が反対するのは、おかしいわよ?』

 予想に反して、母さんが賛成してくれるみたい。


『なっ!?母さん?』

 父さんも母さんが反対すると思っていたのだろう。今までにも同じ様な事がある度に母さんも反対してたのだから当たり前だ。


『だって、コウは1人で辿り着いたんですから。

 貴方と同じゴーレムマスターに。』

 母さんは諦めた様子で、それでも微笑みながら聞いた事がない言葉を口にする。

 ゴーレムマスター?


『父さんはね、若い頃なんだけど。貴方が今、造ったみたいにゴーレムを操って冒険者をしていたのよ。母さんと結婚して、コウが産まれて、危険な事は出来ないって、クレイマー粘土細工師を継いだんだけどね。

 後悔はないみたい。でも、心残りがあるのは、知ってるのよ?』

 母さんは、父さんの隣に座ると微笑んだ。


『コウは大丈夫。だから、許してあげて。

 この子は優しいから、貴方が許してあげないと、ずっと心残りを抱えたまま活きていかなきゃいけなくなる。』

 母さんの言葉に父さんは黙る。

 今までにない長い沈黙。


『16の時だ。家を飛び出した。冒険者になりたくてな。

 コウのじいさんには、同じ様に止められたよ。

 お前なんかが、冒険者になれるか!ってな。

 だから、誰にも言わずに飛び出したんだけどな。

 お前がどうやって、ゴーレムを造れる様になったか分からないが、俺は魔術師と言ってたオッサンにリンゴと交換に貰った本で憶えた。

 ゴーレムマスターって、名乗って冒険者になり、一人前にダンジョンにも潜った。

 そんな時に母さんと出会ったんだ。

 すぐにコウが産まれて。

 お前たちの為に冒険者を辞めたんじゃない。

 怖くなったんだ。

 母さんとコウに会えなくなるかもしれないのが。

 母さんとコウの知らない場所で死んでしまうかもしれないのが。

 だから、コウ。

 いつでも帰ってこい。コウの家は、ここなんだからな。』

 父さんは、立ち上がると部屋を出ていった。

 どんな表情をしていたか、僕は分からなかった。

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