第7章後話

 東部諸国の歴史をできる限り紐解いたプロセルフィナは、何度読んでも変わらない記述にため息を吐くしかなかった。

 七年前、ロイシア王国第二王女ジセル・ユリディケが病没したという内容だ。葬儀はしめやかに執り行われ、王族墓地に手厚く葬られたと記されている。気になるところといえば、逝去の発表と葬儀がそれほど離れた日ではないということくらいか。

 プロセルフィナはジゼルかもしれない。そう告げられてにわかには信じられなかった。なにせ記憶がないのだから確かめようがない。疑いだすときりがなかった。

(……過去は過去。私は、私よ)

 書物を棚に戻して図書室を出ようとしたとき、ジークと出くわした。

「あらジーク、あなたも調べ物? 私はもう終わったからどうぞ」

 彼の実家である王城でどうぞも何もないか、と思っていると、彼は妙な顔をしていた。

「……どうして、お前はそうなんだ?」

「何が?」

「俺がお前に会いに来たとは思わないのか」

 目を瞬かせる。

 首を傾げた。

「会いに来てくれたの?」

 あらまあそういう微妙は駆け引きは嫌いだと思っていたわ。

 びっくりしていると、本当に心外だという顔をされてしまった。

「……俺はお前の何なんだ……?」

「一応婚約者候補よね。嬉しいわ、ジーク。何か用事?」

「お前根本的に全然わかってないだろう」

 わかっているわ、ただ顔を見に来てくれたんでしょう?

 そう言ってもよかったけれど、額を押さえて苦悩するジークが可愛いので止めた。

「私はあなたに会いたかったわ」

 代わりにそう言った。

 顔を見て、いつもそばにいてくれると感じていたい。触れていたいと思う。手を繋いで、寄り添っていたい。彼が恋うてくれるように、プロセルフィナだって拙くはあるけれど愛を告げたいと思っているのだ。

 ジークは途端にむっつりと唇を引き結んだ。自分の顔を覆うように大きく一撫でする。

「……俺もだ」

 観念したような、しかし真摯すぎる不器用なその言葉は、プロセルフィナの顔を綻ばせた。

「調べ物が終わったら、ご一緒にお茶をいかが?」

「……お前本当はわかってるな?」

 からからわれたと気付いたジークが顔をしかめ、プロセルフィナはくすくす笑いを図書室に響かせた。


 それは世界が変わる前、平和な一幕のお話。

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