勇者様が弱すぎるんだが
@fuka2116
ロレンと最弱女勇者
プロローグ
「いなくなった」
「あの方がいなくなった」
「あいつがいなくなった」
「あの子がいなくなったの」
「いなくなった」
「いなくなった」
「いなくなった」
「いなくなった」
「いなくなった」
「いなくなった」
「……どうしていなくなる?」
「探し出さなければ」
「見つけ出さなければ」
「取り返さなければ」
────
地獄だった。一言で表すならそれは。ただただ地獄だった……
この世界には『魔王』と呼ばれる存在が あらゆるところにいた。
魂を喰らう魔王、人を喰らう魔王、残虐な魔王、拷問が好きな魔王、人の命など虫ほどにも思わない魔王。
彼らは奪った。思うがままに赴くままに一時の感情でただただ奪った。
命を、体を、富を、尊厳を、絆を、愛を、 未来を、伝統を、笑顔を、家を、喜びを、感情を、仲間を、魂を……
頰を伝う涙すら彼らは奪っていった……
人々は彼らを恐れた。そして全てを奪われる覚悟を決めた。しかしその覚悟は意外な形で打ち砕かれた。
魔王同士が争いを始めたのだ。
彼らは奪い合った。そして最後には……ある魔王が頂点に立っていた。
どんな魔王すら膝をついてしまうそんな魔王が……
それからしばらくの間は何も起こらなかった。だが人々は恐れた。頂点に立った魔王を……これから起こるであろう本物の地獄を……
人々は力を求めた。魔王に対抗する力を。
その力を持った者を『勇者』と呼んだ。
そして勇者は正義の心を胸に秘め、魔王を倒す旅に出た。いたずらに世界を滅ぼそうとする悪しき魔王を、この世界から消すために。
────
「やっとここまできたな。……あれが魔王城か」
両端に赤い目をした、奇妙な怪物の像を入口にして、古びた階段の上には濃い霧の中から聳え立つ大きな城──魔王城。それだけを覆うかのような、闇色に包まれてる空。それを貫くように建てられたその城はどこか異様な雰囲気を醸し出している。
「この私が 魔王を倒して平和を取り戻してみせる! っとその前にどこか休めるところがあればいいのだが……ん? あれは? 教会……か?」
大きな湖を挟んで遥か遠くに見える教会。長旅をし、疲労状態だった炎の勇者はその教会に向かった。
教会の手前、両端の女神像を入り口にして通り抜けた炎の勇者は広場に歩を進めた。すると花の世話をしている少年を見つけた。
「やあ少年ちょっといいかい?」
「え……? ゆ、ゆうしゃさま! どうしてここに?」
少年の名はロレン。教会に引き取ってもらった孤児だ。
「ふふっ! あそこに魔王の城があるだろう? 最後の休憩をしようと休める場所を探していたらこの教会をみつけたんだ。突然で 申し訳ないが泊めてもらってもいいかい?」
「い、いいとおといます! シスターにきいてきます!」
「頼んだよ」
急ぎ足で教会に入っていく孤児ロレン。
────
「じゃあ……魔王を倒しに行くよ。お世話になったね。」
朝になり、準備を整えた炎の勇者は教会から出る。
「が、がんばって!」
「ああ、必ず倒してみせるよ!」
「あ、あの……ゆうしゃさまはどうしてそんなにつよいのですか?」
好奇心の塊のように、目を輝かせるロレン。
「……それはね『必殺技』を使えるからだよ。泊めてくれたお礼に一度だけ見せてあげよう。 ちょっと離れていたまえ。」
そう……勇者には誰しも『必殺技』と言うのがある。
その場を離れるロレンと、剣を構える炎の勇者。
「必殺、炎一閃斬り!!」
勇者が振った剣からは炎がゴッと吹き出し、目の前は炎に包まれ、地面に亀裂がはいった。
「この技を毎日練習してみんなを守ってあげるんだ。そうすればキミも……きっと強い勇者になれるよ。」
再び目を輝かせ、その場で硬直するロレン。
「ぼくが、ゆうしゃに……わかりました! まいにちれんしゅうします!」
「お、それじゃあサボってないか魔王を倒した後に確かめに来るよ!」
そう言って炎の勇者は魔王討伐に向かった。
しかしその勇者は帰ってくることは なかった……
────
「ひっさつ、ほのおいっせんぎりー!」
広場では、炎の勇者の技を見よう見まねで真似ているロレンの姿。
「おお、魔王城の前にこんな所があるとは!」
そこに、重そうな鎧を着た怪力の勇者が現れた。
「おいボウズ、ここで少し休ませてくれないか?」
────
「ありがとな ボウズ、なにかお礼をしてやりたいんだが何がいい?」
「どうしてゆうしゃさまはそんなにつよいんですか? ぼくもつよくなりたいです!」
「そうかそうか! ボウズ、強くなりたいんだな。それじゃあお手本を見せてやるとするか。ボウズちょっと離れて見ておけよ」
ロレンが離れたのを確認すると、勇者はその手に持った大きな剣を振りかぶった。
「必殺、岩斬り!!」
その剣を地面に振り下ろす。忽ち地面入る凄まじい亀裂。あたりは土煙で覆われた。
「どうだいボウズ、こいつが俺の必殺技だ! 人を守るには力がいる……圧倒的な力を身につけ、弱い人の味方になるんだ。 そうすればボウズも強い勇者になれるぞっ!」
そう言って怪力の勇者は魔王討伐に向かった
だが彼も帰ってこなかった……
────
「ひっさつ、ほのおいっせんぎりー! いわきりー!」
ロレンが技の練習をしていると、そこに華やかな服を着た貴族の勇者がきた。
「ん……キミは?」
その後も様々な勇者が教会にやってきた。
魔法剣が得意な勇者、雷を自在に操る勇者、深い知識を持つ老骨の勇者、どんな女性も落としてきた勇者、何を食べてもお腹を壊さない勇者、命短し恋する勇者。
多くの勇者が教会にやってきて最後の休息をとり魔王城へ向かった。
彼らから宿代を貰っていたら、ここは豪邸になっていたかもしれない。そして幾多の勇者が魔王に挑んだ。
だが……
帰ってくる者は1人もいなかった……
────
「はあああああ! はっ!」
すっかり男らしい顔立ちに成長したロレンは早朝から幾多の勇者の技を真似ている。
「ふっ……今日は これくらいかな」
その時
「キャーーーーーーーーーッ!!」
教会の入口から少し離れ、森にかかる辺りの方面から女の子と思われる叫び声が聞こえてきた。
「悲鳴!?」
驚いたロレンは急いで声の聞こえた方へと走って行く。
そこには今にも襲いそうな半透明なスライム状の魔物と、それに追い詰められている女の子の姿。
「ま、魔物がっ!」
ぐでっとその場に座り込みながら必死にスライムを寄せつけまいと、もがいてる女の子。
「あの女の子……ケガをしているみたいだ。でも、あの魔物スライムだよな……女の子でもケガを負うような相手じゃないぞ!?」
「助けて!」
必死に助けを呼ぶ女の子にロレンは急いで炎の勇者の技を使う。
「必殺、炎一閃斬り!」
ロレンの放った技で、炎に包まれたスライムは、瞬く間に溶けて消えていった。
「す、すごい! 一撃で魔物を倒しちゃうなんて。キミは……も、もしかして──」
よいしょと立ち上がった女の子は言う
女の子はロレンの元へ歩いたが、三歩ともしないうちに倒れ込んでしまった。
「え?」
ロレンは慌てて女の子の元へ行く。
「おいっ! しっかりしろ!」
────
「ありがとねキミのおかげで助かったよ。よーし! これで魔王を倒しにいけるよ。がんばってくるね!」
ロレンは女勇者を部屋に連れて行き、ベットで寝かした。日が真上に登る頃に目を覚ましたようだ。
「え?」
「私……こう見えて勇者なの。これから魔王退治に行ってくるよっ!!」
「あ、あなたは……勇者様だったんですか!?」
目を見開く。
「ふふっ。驚いた? 実はそうなんだー」
窓の外を見ていた目をロレンに合わせた女勇者は、ニコッと笑いながら声を弾ませて言う。
「あ、あの、こんなこと言うのは 失礼かもしれませんが……どうして勇者様はそんなに弱いのですか?」
言ったあとに悔いるような顔をするロレン。
「よ、よわい……?」
悲しげに言う女勇者。
「す、すいません! いきなり こんなこと言って……でもさっき子供でも勝てるようなスライムに負けちゃってましたよね。ひとりで 魔王のところに行くなんてあぶないですよ」
「そ、それでもがんばるよ! だって私は勇者なんだから!」
そう言うと、女勇者は足早に部屋を出て行った。
「あ、行っちゃった。あの勇者様……本当に大丈夫かな?」
……
「『みんなを守れ』『弱い人の味方になれ』……どの勇者様も そう言っていた」
よし、と自分に言い聞かせたロレンは女勇者を探しに行く。
だが探すまでもなく教会から少し離れた野原でスライムに追い詰めら女勇者を見つけた。
「うぅ……こんなに強い魔物が いるなんて!」
そこへ剣を構え、技を入れる。瞬く間に消えていくスライム。
「勇者様! 大丈夫ですか!?」
足早に女勇者の元へ近づき、心配するロレン。
「キミは……! どうしてここに?」
目を見開いて言う女勇者は申し訳なさそうにうつむく。
「今まで会ったたくさんの勇者様達から言われたんてます。『弱い人の味方になれ』って。だからあなたを 助けに来ました。」
「よ、弱いって……私一応勇者なんだけどなぁ、それよりキミはどうしてそんなに強いの?」
少し落ち込んだ様子の女勇者は、首を傾げて問う。
「それは……」
ロレンはこれまでの勇者のことについて話した。
「ええ!? 今までにあった勇者さんみんなから『必殺技』を教えてもらって毎日全員分の技を特訓してたの!? それは強くなるはずだね! そっか……」
……
「あの、お願いがあるんだけど……」
もじもじした様子だ。
「うん」
「よかったら……魔王を倒すのを 手伝ってもらえないかな? つらい戦いになると思うし 怖いっていうのは わかってる……でも……」
「いいですよ」
即答する。
「えっ? ええぇぇ!? そんな簡単に!? 死んじゃったりするかもしれないんだよ!?」
女勇者驚き、飛び跳ねるようにロレンの元へ駆け寄った。
「勇者様の役に立てるなら。俺には……生きる理由がないんですよ。俺は孤児でずっと一人でした。教会に拾ってもらって育ててくれたシスターには感謝しています。だけど……」
「……そっか」
沈黙だけが2人の間を隔てた。そして女勇者は口を開いた。
「うん、わかった! じゃあ私がキミの生きる理由になってあげる!」
満面の笑みでそう言った。
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