第17話
マリスから開戦の通告をされてから、早くも一月が過ぎていた。つい数ヶ月前まで山の中で世を捨てて暮らしてきた少年に、何が出来ようか。毎日出来る限りのことを精一杯やって、それでも、状況を解決させるには何もかも足りない。晴らしようのない焦燥が、ソラの胸を満たしていた。
放課後、テラとの日課の手合わせも終わり、あてもなく校舎の中を歩き回る。そうして、眠る寸前まで何かをするのが、最近のソラの生活だった。
ふと、耳に心地良い音色が聞こえた。どうせやることもないのだから(やることがない、という事実はソラにとって耐えがたいのだが)と、ソラはその音色が聞こえてくる場所へと向かった。
近づくにつれ、それがヴァイオリンの音色だということがわかった。そして、この学校でほとんど使われることのない音楽室から聞こえてきているということも。
音楽室の戸を開けた瞬間に、演奏が止まる。弾いていたのは誰だったのかと確認しようとしたが、そこには誰もいなかった。一瞬疑問に思ったが、自分が幻聴を聞く程に疲れていたのではないかと思い至り、呆れ混じりの溜め息を吐きながら、その場に座り込んだ。
「焦りすぎか。もう、なるようにしかならない」
そういえば、ヴァイオリンは父の趣味だったということを思い出す。息子に聞かれるのが恥ずかしかったのが、いつも自室で小さな音しか出していなかったが、二人しかいない家の中で、そうそう隠し事など出来ようはずもない。その音色を子守歌にして眠る夜もあった。
「父さん……」
父がこの場にいれば、自分をしかりつけたかもしれない。八識流では、心の乱れが一番の敵だと教えられた。ソラは立ち上がり、その場を去る。焦燥は、もうどこかへ消え去っていた。
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