第11話
その日、ソラは夢を見た。自分が人間を裏切り、マリス達魔族の側につくという夢だ。立ちはだかるかつての友人達の血で、自分の手が汚れていく。それを優しく握ってくれる、マリスの手も同様に。
テラの胸に剣を突き立て、彼女の手がソラの頬を慈しむように撫でた時、目が覚めた。
「はぁ、嫌な夢を見せるね、マリス」
八つ当たりのような言葉だったが、こんな夢をみたのはマリスと一日を過ごしたからだろう。
「どうしたソラ、溜め息なんて。恋の悩みか?テラはなー、案外普通に告白すればOK貰えるんじゃないか?」
ソラが起床したことに気付いたレッカが、頭だけを二段ベッドの上から覗き込ませて様子を窺う。
「なんでそこでテラの名前が出てくるのさ」
夢の内容のこともあって、今テラの名前を出されるのは気分が良くなかった。しかしレッカは気付かず、話を続ける。
「えっ、まさかライナの方か……!?」
その声色に絶望の色を感じて、ソラはレッカに疑問を返した。
「そんなに慌てるってことはもしかして……?」
図星を突かれたらしく、レッカは言葉に詰まり、次いで言い訳でもするように話しだした。
「わ、悪いかよ。なんかほっとけないっつーか、傍にいてやりたいタイプなんだよ、あいつは」
「ふふっ、そんなに必死にならなくても、僕はライナのことを大切な友人としか思ってないよ。応援する」
そう言って微笑する仕草は、男女問わず魅了してやまないものだ。レッカも思わず呻いたが、すぐに頭を振って妙な感情を振り払う。
「お前が恋のライバルじゃなくて良かったよ」
文言は冗談交じりのようだが、声色からは心の底からの安堵が聞いて取れた。
「さて、そろそろ行こうか。雑談の続きは教室でね」
壁にかけた制服を手に取りながら、ソラはまた微笑した。
***
寮から出ると、いつもの不安げな表情を浮かべているライナが立っていた。
「お、おはようございます」
「おはようライナ。で、テラは隠れきられてないから出てきなさい」
ライナの背後に隠れるようにしてテラが立っていたのだが、彼女の方がライナより余程背が高く、束ねられた髪の頂点が揺れているのが見て取れた。観念して、ライナの肩から顔を出す。
「うん、おはよう。迎えに来たよ」
「わ、わざわざありがとな」
不意打ちのような形でライナと会ったことで、レッカの目は泳いでいた。
「レッカさん、具合でも悪いんですか?」
どうやらレッカが恋心を自覚したのはつい最近であるらしかった。明らかに挙動不審になった彼に、心配そうなライナの声がかかる。
「い、いや大丈夫。元気元気」
なんとか目を合わせて返答する。ソラとテラはその光景をニヤニヤしながら眺めていた。
***
ソラ達が友人との日常を過ごしている中、王の自室の中に、一人の侵入者があった。
「俺を殺しに来たか、スカーレット」
ベッドに剣を突き立てようとした魔人、スカーレットだったが、目標であった剣王アーサーは部屋の中央に据えられている椅子にいつの間にか座っていた。テーブルの上には湯気を上げる珈琲が二つ、芳しい香りを漂わせながら置いてあった。
「この程度でお前を殺せるとは思っていない」
「かといって、旧交を温めにきたってわけでもないだろう」
スカーレットは無言でアーサーの向かいの椅子に座ると、珈琲をまじまじと観察して、一口飲み、「苦い」と文句を言ってテーブルの上に戻した。
「子供舌め」
「ふん、別に貴様を殺しにきたのではない。宣戦布告だ。3ヶ月の後、この街に戦を仕掛ける。20年前に終わらなかった戦争を終わらせよう。無論、我らの勝利でだ」
「勝ち目があるのか?」
「さてな、やれるだけのことはやった。これで我らが滅ぶのなら、悔しいが仕方が無い」
「そうか。結局お前は、戦うことしか出来ないんだな」
「それ以外の生き方を知らん。戦って、奪うことしかな」
「悲しいな。いや、悲しいかどうかもわからないのか、お前には」
スカーレットはそれに言葉を返すことはなかった。彼に人の道理は通じない。妻に、マリンにそれを説かれたこともあったが、一つも理解することは出来なかった。彼は無言のまま、何処かへと消えていった。
飲みかけの珈琲が、まだ湯気を上げている。
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