二番目の勇者パーティーは人間の屑ばかり

佐久間零式改

はじまり

二番目の勇者パーティーは屑しかいない



 二十二の大陸からなるファーストランドの中でも異彩を放っていたギギルガント帝国は人類をさらなる高みへと導くべく、人類と魔族との錬成術による融合を研究していた。


 その結果、人類と魔族とを錬成し、人でも魔族でもない者達を生み出したのである。


 それがギルガントである。


 身長が二メートル以上もあり、その身体付きは魔族のように強固な上、身体は竜族のように鱗で覆われているという者達であった。


 彼らは人類の進化の名の下に多くの国を滅ぼしていった。


 そんな中、古来より予言されていた勇者が出現する。


 その勇者の名は、シンフォルニア・アーシュタイン。


 燃えるような赤髪の男である。


 シンフォルニアは、様々な伝説の武具を操り、ギルガントに立ち向かっていた。


 多くの人々を救い続けているシンフォルニア・アーシュタインの事を、ファーラストランドに住まう人々はこう評していた。


『赤き流星のシンフォルニア』と。




      * * * 




 二十二大陸のうちの一つ、アーラス。


 ギルガントが本気を出せば、いつ滅ぼされてもおかしくはない弱小国が二つだけ残っているが、もう滅ぶ寸前であった。


 そんなアーラス大陸を横断するような道があった。


 その名は、オーラロード。


 各国各地方との交通の要として機能しており、アーラス大陸の生命線と言える道であった。


 要所であるため、ギルガントからの守るための自警団と二つの王国の軍隊とが警護にあたっている。


 その日、オーラロードを六百人ほどのギルガントの鉄騎兵団が進行していた。


 ギルガントの鉄騎兵団が土煙を上げながら進軍してくる様子が、オーラロードをある程度展望できる丘の上からよく窺える。


 カーキ色のフード付きのぼろぼろロングコートを着た四人の者達がその丘から下界の様子を見つめていた。


「たかが鉄騎兵団のせいで、オーラロードが使えなくなるのは困るんだが、やるか?」


 アーシュタインがそう言うと、


「私はお断りよ。ただ働きだなんて」


 甘ったるい響きの声音でエメラルダ・フォン・ヴァナージがうんざりしたように言う。


「なら、交渉してくるか。お前ら、あの鉄騎兵団を殲滅するなら、報酬はいくらが妥当よ?」


「金貨百枚かしらね」


「同じく」


 エメラルダをねっとりとした視線で見続けていたアイアンウィル・ディメーションがぼそりと言う。


「わしは、美女の脱ぎたての下着があれば良い」


 しわがれた老人のような声でシシット・ブラウナーが言った。


「おっし、金貨百枚と数日分の酒だな」


 美女の脱ぎたての下着という意見をスルーして、アーシュタインは丘から飛び降りた。


「開けよ! 俺の翼! 不死鳥の翼フェニックスウィング!」


 その言葉に応えるように、ロングコートの下から炎の翼が現れた。


 コートを燃やしていない上、コートを突き破るように生えていながらもコートそのものに穴を開けてはいなかった。


 しかも、三人も同じように丘から飛び降り、炎の翼に掴まった。


「振り落とされるなよ!」


 王国軍の前まで来ると、三人が順々に地上に降り立った。


 ちゃんと着地したのを見届けてから、炎の翼を消し去り、アーシュタインも地に降りた。


「この中で一番偉い奴を出せ」


 突然現れた四人に、王国軍の兵士達が一斉に身構えるも、どこか逃げ腰であった。


「これが俺の身分を明かすはずだ」


 炎の翼を出した男は、腰に佩いていた剣をぬき放ち、見せつけるように空へと掲げた。


 日の光に照らされているのだが、その光とは違う禍々しい紫色の陽光が剣から立ち上っていた。


「それは、始皇帝の剣!」


 兵士の中の誰かが畏怖と尊敬とを込めて声をあげると、兵士達の間からどよめきが起こった。


 その剣が伝説の武具の一つであるだから当然の反応と言えた。


「俺はただ働きはしない主義なんでな。成功報酬は金貨百枚と数日間分の酒で、あの鉄騎兵団を押し返してやろう。どうだ?」


 兵士達の中から、装備している鎧などが他の兵士たちとは違う騎士が歩み出てきた。


「勇者シンフォルニア・アーシュタイン……か。噂とは違い、随分とがめつい勇者だな。本当にやれるのであれば、金貨百枚程度惜しくはない。その条件、承知した」


「俺は聖人君子じゃないんでな。きっちり報酬をいただかないと気が済まないタチなんだ」


 アーシュタインはフードを取り、燃えるような赤髪を見せつけて、ニヤリと不敵に笑った。


「ならば、金貨百枚の戦いぶりを我らに見せつけよ!」


「俺に酒をつぐ女も用意してくれると助かる!」


 シンフォルニアは不死鳥の翼を出し、一気に上空へと舞い上がった。


「わしも本気を出すかのう」


 シシットがフードを取り、前方に見えるギルガントの軍隊をねめ回し、


「ほれ、四倍の重力でどうじゃ」


 不敵に笑いながら何やらむにゃむにゃと呪文を唱えると、オーラロード周辺の空気がかわってきた。


 進軍してきているギルガントの進行速度が極端に落ち始めた。


 動きが何かに阻まれているかのようだ。


「しばらくは四倍の重力がギルガントにかかっておる。後は任せた」


 シシットは疲れたと言いたげに肩を軽く回してそう言うと、アイアンウィルもフードを外して、スキンヘッドを露わにした。


「右手の炎、左に氷」


 アイアンウィルは両手を空へと差し出した。


 コートの下には大きな肩パッドが見え隠れしており、体格を誤魔化すと同時に、手の内を隠しているかのようだ。


 右の手の平の上空に大きな炎の塊が、左の手の平にはこれまた大きな氷の玉が浮かび上がった。


「耐え切れれば良いな」


 アイアンウィルは炎と氷の玉をギルガントに向けて放った。


 離れていっているはずなのに、二つの玉はその大きさが変わっていないかのように見えていた。


 遠近法を無視しているかのように見えて、実のところ、二つの玉は巨大化しているのであった。


 二つの玉はギルガントの軍隊に直撃し、至る所で炎の柱と氷柱とが咲き乱れていく。


「罪人には裁きを。聖人には祈りを」


 エメラルダがフードを取り、その素顔を見せると、ずっと見守っていた王国の兵士達からため息に似た声が漏れた。


 金色に輝く、しっとりとした腰の辺りまで伸びた長い髪。


 誰もが見ほれてしまうであろう絶世の美女と言っても間違いはないであろう見目麗しい女性であった。


 エメラルダは弓矢を持っていないのにもかかわらず、天に向かい弓を引くような格好を取った。


「罪深き者達に、贖罪の光を。聖光弓!」


 その言葉を共に、黄金色に輝く弓と、一本の光の矢とが空間に出現した。

 

 エメラルダが矢を放つと、一本であったはずの矢が二本となり、四本となり、八本となり……いつしか数千もの矢に増殖していき、ギルガントの部隊へと降り注ぐ。


「始皇帝の剣よ! 輝け! 輝け! 輝けェェェェェェェェッ!!」


 上空を駆けていたアーシュタインが一気に直滑降で降りてきていた。


 その手には始皇帝の剣が握られているのだが、刀身がこの大陸にある世界樹ほどの大きさへとふくれあがっていた。


 始皇帝の剣は勇者の持つ覇気に連動し、その刀身を自在に変化させる事が可能なのである。


 上空に上がっている間に覇気を注げるだけ注ぎ込んでいたのである。


「粉砕ッ!」


 着地と同時にオーラロードの道以上もありそうな巨大な剣と化した始皇帝の剣をギルガントの部隊へと叩き付けていた。


 轟音、土煙、そして、地響きが周囲に響き渡る。


「終わったな」


 手にしていた始皇帝の剣がその一言で元の大きさへと縮小していく。


 元に戻った始皇帝の剣を鞘へと収め、張り詰めていた空気を払うように、はぁっと息を吐いた。


 四人の連携により、一瞬にしてギルガントの部隊は全滅していた。


「……」


 四人の活躍を見守っていた兵士達が一斉に息を呑んだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 歓声が一気に沸き上がり、


「さすがは勇者一行! 噂以上に強い!」


 などと四人の賛美するような声が次から次へと上がっていった。


 そんな歓声を四人は冷ややかな気持ちで受け止めていた。


 この者達は本物の勇者一行ではない。


 自称『二番目の勇者パーティー』なのである。


 始皇帝の剣を操り、不死鳥の鎧を自在に操っていた男の名は、ミリアルド・アーシュタイン。


 勇者と言われるシンフォルニア・アーシュタインの実の弟である。


 兄のシンフォルニア同様、伝説の武具を扱えるのだが、兄と比較すると、どうしようもないクズである。


 金、酒、女のために動くクズのような男である。


 重力の魔法を使った男は、シシット・ブラウナー。


 この大陸にある、唯一無二である魔術師養成の魔法学園リリースの元校長をやっていたほどの大魔法使いだ。


 数年前、素行不良により追放になっていたところをミリアルドに拾われ、共に旅にする事となった。


 追放になったその理由は、女生徒の下着を盗み続けていた事であった。女性そのものにはとんと興味がなく、はいている下着にしか目が行かない、ただの変態である。


 二つの属性魔法を同時に使っていたスキンヘッドの男の名は、アイアンウィル・ディメーション。


 魔法学園を主席で卒業した後、オールラウンダーの魔法使いとして大活躍をし、大賢者とさえ言われた事のある男である。


 大きな肩パッドを両肩にし、身体を隠すようにコートを羽織っており、その巨躯を常に隠すようにしている。それも、全ては一日中、ナニをいじり続けているためであり、常に『賢者モード』の男である。


 四人の中で紅一点の女性は、エメラルダ・フォン・ヴァナージ。


 黙っていると絶世の美女なのだが、性格が悪い上、金持ちの男となら誰とでも寝るビッチな上、一夜を共にした相手から金品をくすねる事が生きがいというシーフ属性の元司教である。


 彼らは自らの欲望のために、二番目の勇者パーティーとして欲望の赴くままに活躍している。


 そんなクズ四人の欲望まみれの物語が始まるかもしれない……。



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