ああ、今日もこの雑踏の中で。
鳥殻モアイ
第2話いまさら盗んだバイクで走りだしたくない『五十の夜』
中2の時、日本のパンクバンド「アナーキー」に衝撃を受けた。確か同級生の家に遊びに行ったときにソイツの高校生だった兄貴から教えてもらったんだっけなあ。
もうかなりの衝撃で毎日それこそレコードが擦り切れるほど聴きまくった。それ以前から海外のロックバンドは好きで日曜日とか友達と秋葉原の輸入盤を取り扱ってる店に行っていろいろ物色してた。自分は買わなくても誰かがレコードを買えば後からカセットテープにダビングしてもらえばいい程度。しかし、「アナーキー」で目覚めたオレはそのパンクロックという路線にどっぷりハマり、それまで聴いていた海外のロックには興味を示さなくなった。もちろんパンク発祥の地であるイギリスの「セックスピストルズ」や「クラッシュ」「ダムド」など聴きまくったがなぜか衝撃を受けなかった。多分、歌詞が英語なのとBGMとして聴いてしまう感があったのだ。しかし、パンクによって人生観が変わったし今現在のオレがあると断言できる。
そして、パンクロックと同時進行に親に甘やかされ育ったひねくれ欠陥少年はより一層ひねくれ度が加速する。高校生になるとやれ「政治」が悪いとか「社会」が悪いとかはたまた「天皇制」が悪いとまで言いやがる批判小僧に突入した。いや、でも一番多感な年頃だからねー批判の裏側じゃ自分自身の今置かれてる状況や先の見えない人生とかいろいろ悩み苦しみもがきながら"ガラスの十代"を送っていたんだと思う。
ただ流れてゆく時間の中をなんとなく生きてる自分。日常に埋もれていく自分。
既成概念の中で本当の自分を見出せるか?無理だろう?あー全てぶち壊して―!!
というわけで、17歳の時バンドを結成した。中学の時から漠然とやりたかったし、自己主張、自分というものを表現するには一番手っ取り早い手段だと思ったからだ。しかし今でこそパンク・ハードコアなんて雨後のタケノコのように氾濫してるが当時はかなり少数派で特殊なジャンルだったと思う。音楽性にしろファッション性にしろ、その独特な雰囲気を放つ姿勢がオレを完全にぶち壊した。
オレはバンド結成と共にファッションにも力を入れ始めた。髪は両脇を剃り込みいわゆるモヒカン?トロージャン風に変え、安いライダースジャケット(バッタもんでしょ)を上野で手に入れビョウを付けたりペインティングしたりドクターマーチンなんて高価なブーツなど買えなかったから浅草の作業服屋で安全靴を買った。ジーンズもさりげなくあっちこっち穴を開けてパンクファッションの出来上がりだ。
でもなんか違うんだよなー、オレの性格上パンクだからってこういう格好しなきゃいけないとかこだわりたくなかったし多少の違和感を抱きつつ、まあ17,18歳ですからね、粋がる年頃ですからまあその辺は許してやってくださいよ。
そんでここで頭をもたげてきたのがオフクロなんだよなー。オレのファッションパンク生活からしばらくしたある日、家で曲作り励んで慣れないギターをかき鳴らしていると隣の部屋からいきなり半分狂ったような泣き声が。「私の育て方がいけなかったのよ!私が間違ってたわ、死んじゃいたい!!」とか初めて聞いたオフクロの半狂乱ぶりには驚いた。と同時に「オレ別に犯罪者になったわけじゃねえしそこまで泣かなくてもなんで?なんで?」とオロオロするばかりのオレはそれから少しずつパンクファッションから遠ざかっていった。
いや、ここでポイントなんだが反抗期真っ盛りかつ親が死んでもパンクだぜ!っていう悪たれで小僧だったらグレイトフルパンク!である意味カッコイイんだけど、
そこはソレ、高齢出産のもと真綿にくるまれて大事に大事に育てられた一人息子ですよ。パンクだ、なんだと言いつつも親の涙には勝てなかった普通の気弱なボクちゃんだった。
でもさあ、それまで親とは色々とあったけど(彼女からもらった隠しておいたラブレター勝手に見られてグジグジ言われたり、生活態度や女がらみの出来事など)。
やっぱ管理されてんなーと。自分の支配下に置いときたいんだなーと。比較的自由に生活してても管理された、把握された自由。
それについて反抗心も明確な表現ができずに嘘をついたり虚栄心でもって自分を表す事が多くなった。
当時のバンドのメンバーが羨ましかったもん。オレ以外は地方から上京してきた連中ばかりで中卒、高卒で単身東京に来て仕事しながらバンドやって暮らしてる。
多分、親や地元への反抗心、自分自身の現状からの脱却の為に盗んだバイクで走り出して東京に来たんだろうな。そしてりっぱに自立して生きている。管理された自由じゃなくて自分でつかみ取った自由がそこにある。
尾崎豊の『十五の夜」をBGMにオレは50にして思う。
「いまさら盗んだバイクで走り出すのは不可能だ、いい大人なんだから」
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