2番目の引き出し

アンドウ イリエ

『2番目の引き出し』

彼がゼミ旅行に行った日、私は彼の部屋に潜入中だった。



最近は鍵の番号さえ分かれば、ネットで合鍵が作れるわけ。


信じられないよね。


悪用する人だって出てくるんじゃないの?


良くないと思う。


私は違うよ。


彼の様子が怪しいから、ちょっと調査するだけ。



他に女がいる、きっと。



本当は速攻別れても良いんだけど、私の誤解だったら可哀想でしょ?



きちんと調べて、シロだったら別れない。


いわば救済のための調査であり、その調査のための合鍵作りなの。


仕方ないよね。



高田くんと知り合ったのは、去年の合コン。



うちの女子大の近くに有名な医大があるんだけど、そこの学生達だって話だった。



でも、それって嘘で。



本当は青山立教経済大学っていう、どっかから苦情がきそうな名前の大学に通ってた。



最初がそれじゃん?



私が疑り深くなるのも当たり前よね。



この部屋にはデートの帰りに泊まっていくこともある。



なんでも勝手に使ってるし、なんなら着替えも少し置いてある。



だけど彼はリビングのキャビネットの2番目の引き出しだけは、必ず鍵をかけていてさわらせない。



おかしい。


あそこに何かある。


例えば浮気の証拠とか。


そんなわけで引き出しを開けようとしているわけだけど、鍵が見つからない。


疲れ果てて、休憩してるところ。


大丈夫。時間はある。


高田くんは2泊3日で奈良にいるんだから。


喉が乾いた。


冷蔵庫になんかあるかも。


希望をもって開けたが、冷蔵庫には相変わらず何もない。


いつもコーラか水くらい。


あとアイスとか。


そのコーラさえないのでフリーザーをのぞくと、奥に変な物が入っている。



なんだこりゃ。



メロンの形のシャーベットのフタがヒモで十文字にしばってあるのだ。



ピーン


ときたね。


鍵はここだ。


手にとって振るとカタカタ音がする。



どう考えても中身はシャーベットじゃない。



ハサミでヒモを切って開けると、やはりキャビネットの鍵だった。



引き出しがするすると開いた。



中には乱雑に物が詰め込まれ

上にクリアファイルがのせられている。



趣味の悪いブレスレットとか。



可愛い女の子と写ってる写真がいっぱい。


まぁ、私の方が可愛いけれども。



キャバクラの名刺もある。



昨日、寝言で「まりんちゃん」と言ってたのは、この女のことか。



「いやいや、麻衣の名前を呼ぼうとしてオレなまったんだよ。最近よくなまるんだよ」

とか言ってたけど。



だいたい、高田は東京出身じゃね?



何なまりだよ。ふざけんなよ。



帰ってきたら、ボコボコにしてやる。



クリアファイルには、きったない字で「麻衣へ」と書いた封筒があった。



私?



まさかデート費用の明細とかじゃないだろうな。



もちろん開ける。私宛ての手紙なわけだし。



『愛する麻衣へ


オレは今まで沢山の女と出会った。


だけど他の女と会えば会うほど、麻衣の素晴らしさが分かるんだ。


どんどん麻衣が好きになる。


相乗効果ってやつだね。


決して浮気とかそういうんじゃない。


今では全てを過去というブラックボックスに封印したんだ。


もう麻衣しか見えない。


思い出はまぼろし。


そして、かげろう。


この引き出しに永遠に閉じこめるよ。



オレを夢中にさせたマイエンジェル。


恥ずかしくて言えないから手紙を書くよ。


きっと渡せないけど。


君の優しさ、美しさはフォーエバー。


50万光年分、もう愛しているよ』



高田くん…


高田くん…


なにこれ、泣ける。


私もあなたが世界で1番好き。


過去はかげろう。


あなたへの愛はフォーエバー。









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