ある冒険者パーティーの話

「なんか依頼ください……」

 私は冒険者ギルドの受付に泣きついた。ボードにはCランク以上の討伐や護衛、たいした金にならない近場の採取や、お手伝いの依頼が並んでいる。Dランクの私達に、ちょうどいい依頼がない。

「エンゼルランプのお二人。また金欠ですか?」

 痛いところを突かれる。どうもお金の計算が苦手で、宿代を払う時に足りなかったりしちゃうの。宿代は十日ごとの支払いなのよ。期日は明後日。


「だから食費を抑えてって、注意したじゃない! アンタは計画性がないのよ!」

「仕方ないじゃないの……」

 相棒に叱られる。どうせ私が悪いんですよ。

 スイーツ美味しかったし、ステーキだってたまには食べたいし、サラダセットにしないと栄養バランスが悪いと思うの。

「イサシムのヤツらは家も手に入れたのに、私達はまだその日暮らし……」

 いつものボヤキが始まってしまった。お金、お金さえあれば解決できるのよ。これは私達コンビの危機だわ。

 私達は同じ村出身の、女性二人のパーティーなの。見捨てられたら一人になってしまう。


「依頼は……こんな感じか~」

 紺の髪の男性が、依頼ボードの前に立つ。

 私達と同じDランクのランク章を付けているけど、仲間は一緒じゃないみたい。このランクでソロは珍しいな。決まったパーティーが無い人なのかな?

「は~、いい依頼……ないよねえ」

「……どしたの? ずいぶん打ちひしがれているね」

 思わず男性に話し掛けてしまった。確か何度か、ギルドや町で見掛けている気がする。この町を拠点にしている冒険者かな。

「ちょっとね。この子が無駄遣いし過ぎて、宿代がピンチなの」

「はははっ、そりゃ大変だ。誰かランクが上の人と組んで、討伐を受けたら?」

「それができればいいけど、お荷物になるから受けてもらえないよ」

 そういうのは、よっぽど仲がいい人とかじゃないと。

 Cランクパーティーならギリ受けてくれるかな? でも取り分が減るから、戦力が足りていたらいらないだろうし。


「えーと、そうだねえ……。おや、ちょうど暇そうな人達がいるじゃない」

 男性はギルド内を見回して、知り合いでも発見したみたい。カツカツと歩いて行く。その先にいるのは、背が高い男性とキレイな金髪の男性の二人組。

 え……、Aランクの人達じゃない!? いくらなんでも失礼でしょ、バカなの!?

「ちょっと、やめなさいよ」

 慌てて止めるんだけど、全然聞いてくれない。

「いいから。やあ、ノルディン君、レンダール君」

 しかも君付けとかっっっ!!!

 巻き込まれたくないわ、私達は他人です!

「げっ。エクヴァル殿」

「久しぶりですね。今日は一人で?」


 この二人の反応。本当に知り合いなの……!? でも図々しいからかな、ノルディンさんには嫌がられてるわ。

「それなんだけどね、この二人と組んで討伐依頼を受けてあげてくれない?」

「なんだ、後輩指導か。任せとけよ。ギルドへの貢献として、やった方がいいしな」

「引き受けるよ。めぼしい依頼でも?」

 す、すごい奇跡だ……! Aランクの人達と組んで依頼を受けられるの!?

 相棒もビックリしている。

 エクヴァルさんは依頼ボードの前に立ち、適当な札をサッと外した。あまり選んだ様子もないし、目を付けていたのかな。

「この辺でどうかな? 洞窟の魔物の、調査と討伐」

「……後輩指導で洞窟での討伐を選ぶとか、相変わらず鬼だな」

 

 ど、洞窟なの……。逃げ場がないし、たまに唐突に強い魔物が出現するらしい。低ランクだと厳しいのでは。

「安心したまえ、私も行くよ」

「え? エクヴァル殿も来るのか……!?」

 少し嫌そうな表情をするノルディンさんに、エクヴァルさんはわざとらしいほどの笑顔を向けた。

「不満かな?」

「ないない! 皆で行くか~!」

「準備はできている? 私達は依頼を受けようと来たから、いつでも出発できる」

「大丈夫です! お願いします」

 結局あの二人って仲がいいのかな。放っておいて、レンダールさんが私達に確認してくれた。私達はすぐにでもお金が欲しいし、早速依頼を受ける。


 今回は指導がメインなので、Aランクの二人は極力手を出さない。その分、報酬は私達が多くもらえる。エクヴァルさんの立ち位置が判らないわ。一緒に指導を受ける感じじゃないのよねえ。

 目的地まで移動しながら、尋ねてみた。

「エクヴァルさんって、なんで付いて来たんですか?」

「……え? 迷惑だった?」

 しまった、直球すぎた。相棒が呆れた視線を私に浴びせる。

「そうじゃなくて、一緒に依頼として受けて指導してもらうのかな、でもなんか違いそうって」

「ああ、報酬の分け前のこととか? いらないよ、ただ私が倒した敵の素材があったら、それは私がもらうね」

「もっちの、ろんです! 皆で頑張りましょー!」

 分け前が減らないのは嬉しい。これで元気になったから、Aランクの二人にも笑われてしまった。


 依頼の場所は、以前グリフォンが繁殖した洞窟の近く。ここにはいくつも洞窟があるんだ。奥まで続いていなくて、小さなものもあるよ。

 このうちのどれか……、貰った地図と照らし合わせながら探す。

「これ……かなあ」

「違うよ、こっちだよ」

 他の人達も地図を確認している。ただし私達の指導を兼ねているので、解っていても教えてはくれない。う~ん。表情から察するに、相棒が指しているのが正解ね。

 さあ、入ろう。光る魔石を持って入る。

 入口はかなり広い。進むとヒカリゴケが生えていて、真っ暗って感じにもならない。ちょっとじめっとした感じだ。奥に泉があるらしいから、正解っぽい?


「コウモリ型の魔物がいることもある、天井も注意して」

「はい。ここにはいないですね」

 レンダールさんが、さり気なく教えてくれる。言葉も優しい。

 エクヴァルさんは辺りをぼんやりと眺めているような。大丈夫かな、あの人。

「依頼が魔物の調査と討伐だったよね。ここの魔物って、種類は色々出るのかな?」

「魔物が増えやすいタイプの洞窟で、たまに間引く為に退治依頼が出されるんだよ。そんな強い魔物の報告例はないぜ。今までにない種類が出たら報告して欲しいってコトだろうな。油断は禁物だ!」

「油断しているのは君だね、ノルディン君」

 ちょっ、だから失礼だって!!! なんかノルディンさんにドライじゃない、エクヴァルさん。Aランクが羨ましいのか、落ち着けDランク。


 不意に真っ暗な岩の裏で、影のような生き物が動いた。

 それがノルディンさん目掛けて跳びかかる。

 すぐに体勢を整えて剣を構えたノルディンさんが、その魔物をまっぷたつにした。猫みたいな、すばしっこそうなヤツだ。

 よくあんなの、すぐに対処できるよ! さすがだな。洞窟は敵が把握しにくいね、気を付けよっと。

 おや、エクヴァルさんは先に勘付いてたの……???

「気を抜かないでってば、魔物よ!」

「うわあ~サンドワーム……」

 相棒に怒鳴られてしまった。現れたのは鉱山によく現れる、でっかいミミズみたいな魔物。これは気持ち悪い。


「まずは私が引き付ける!」

 相棒がサンドワームに石を投げる。あの魔物は目が悪いので、物音や振動、当たった衝撃なんかで敵を判断するのだ。

「よっし、私達もイイトコ見せないと!」

「こっちよ、サンドワーム! アンタ余計な大声出さないでよね!」 

 そうだった、私が騒いだらおとりの意味がないわ。ヌッと相棒に近寄るサンドワームの脇に走り、無防備な図体に斬り掛かった。

 サンドワームは突然の攻撃に驚いて、体をくねらせる。弾みでしっぽがこっちに向かってる。うわあ、逃げなきゃ! 慌てて走るけど、間に合わない!

「大丈夫」

「レンダールさん!」

 スッと私の横を駆け抜けたレンダールさんが、一刀両断してしまった。しっぽは飛んで壁にぶつかる。反対側には、エクヴァルさんまで。ノルディンさんは相棒に付いてくれていた。

「敵の動きも想定しないとね」

「はい、ありがとうございました」

 攻撃した後も考えなきゃいけないんだよね……。レンダールさんにお礼を言って、さらに奥へと足を進めた。


 その後も魔物を数体、指導を受けながら私達が倒した。手に負えないようなのは、いなかったよ。

「だいぶ奥まで来ましたね」

「ここで終わりにしておこうぜ、無理はしない方がいい」

 ノルディンさんが目を向ける先は、道もぐっと狭くなっている。私達も賛成だ。

「池がありますね。あそこで終了にしてはどうでしょう」

 相棒は魔石の灯りを反射させる湖面を指した。ここまで調査しましたって報告しやすいし、距離もあと少し。ちょうどいいね。

「そうだね。ただ、池には君達は近づかないで。引きずり込むような魔物がいるかも知れない」

 真顔で怖い忠告をするレンダールさん。エクヴァルさんは軽い足取りで、勝手に池へ向かってしまった。

 いいの? 彼はいいの?? それとも諦められているの?


「池はこっちで軽く確認するから、周囲を警戒しててくれよな」

 ノルディンさん達も池を目指す。私達は言われた通り、辺りを見回した。天井で光るのは、ツチボタル。下にはほんのり明るい、怪しげなキノコ。

 水があるから、洞窟の魔物の水飲み場になっているかも。

「池に何かいる」

 レンダールさんが呟いた。私達は離れていたけれど、もっと後ろに下がっておいた。

 ザバっと水から上がったのは、人より一回りも大きな亀だ。

「魔物!?」

「見たことがないタイプだな……」

 Aランクの二人も、エクヴァルさんも知らない魔物みたい。魔石の灯りに、鋭く尖った爪が反射する。ゴツゴツした甲羅も硬そう。


「ひゅーーー!!!!」

 風が抜けるような声で鳴く亀。立ち上がって前足で攻撃してくるのを、ノルディンさんは剣で防ぐ。

 太くて短い足から繰り出される攻撃は、かなり力があるのかな。押し負けて膝が曲がり、レンダールさんが亀の前足を斬って援護をした。

 二人は亀の左右に分かれて、攻撃を避けながら斬りつける。

 でも亀が地面に伏せちゃうと、分厚い甲羅にしか当たらない。武器が折れちゃう!

「甲羅ではダメだ」

「立たせるしかねえな!」

 レンダールさんが離れて、ノルディンさんは攻撃して少し下がり、亀が立つように誘導している。ついに二本の後ろ足で立ち、鋭く尖った口を開けた。今度は噛み付きだ!


「避けていてくれたまえ」

 お前じゃない!

 攻撃態勢に入っていたレンダールさんを差し置いて、エクヴァルさんが真後ろから甲羅の下の方に剣を突き立てた。

 だから甲羅は攻撃が通らない……、はずなんだけど……。剣が半分以上、甲羅に埋もれている。なんで!?

 そのまま斬り上げた。甲羅はパカンと真っ二つに割れ、背中にも傷を作っていた。剣の威力がおかしい!!!

 レンダールさんが首を落とし、亀退治は終了。

「えげつない切れ味の剣だ……」

「ははは、これって甲羅も持って帰るのかな?」

 三人で討伐部位を持ち帰る相談をしている。甲羅も売れそうだから、絶対に欲しいよね。

「甲羅、重そうだなあ」

 話し合いの結果、ノルディンさんとレンダールさんが半分ずつ、それから長い爪をエクヴァルさんが持った。


「エクヴァルさんって、どうしてDランクなんですか……?」

 帰り道、思わず質問してみた。よっぽど素行が悪くてマイナスなの……?

「あ~、私は国を発ってから冒険者になったから。まだ何カ月も経ってないよ」

「「早っ!!!」」

 相棒と声がかぶる。強くて当然かも。一年以内にDになってもスゴイのに、そんなに早いランクアップとは。これからはもっと敬おう。無理かもだけど。


 ちなみにギルドで鑑定してもらった結果、亀はキム・クイという魔物だった。爪で弓を作ると、強力な弓ができるとか。

 薬にならないのかと、エクヴァルさんは何故か残念そうにしていた。

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