最強で下から二番目の魔法使い

みち木遊

実質、最強でほぼ、最弱。

 魔法。

 それは人間の体の中に流れている力である魔力を使い不思議な事象を起こすものである。

 天候操作ウェザーコントロールマジック突然発火パイロマジック無操作物体移動ハンドマジック生体治癒ヒールマジックなどなど。

 便利なものばかりだ。

 そして、魔法を使うものを魔法使いと人々は呼び、彼等は人々のために魔法を使い続けていた。

 しかし、魔法使いが表に出る時代はいつしか終わりを迎え、科学が発展した世界に彼等の居場所は減少の一途を辿り、周囲と溶け込むように生きるようになった。

 だが、魔法使いの存在は完全に途絶えたわけではない。

 今でこそ魔法の箒にまたがって移動する者はいないが、そういう類いのものは今でもある。

 例えば、この物語の主人公、壬生みぶいおりは魔法のスケートボードに乗り、誰もが寝静まる街を走っている。

 誰が作ったのかわからない魔法使いランキング全五百二十六位中、五百二十五位で、魔法使いのある意味コードネームのようなものになっている通り名は『実質最強』。

 順位付けの審査内容は魔法の練度や技術が対象となるのだが、そんなランクの中で下から二番目の彼女は何故『実質最強』と言われているのか。

 理由はとっても簡単。

 一般的に魔力は有限なのだが、彼女はその概念がない。

 言い換えれば、の魔力を彼女は持っている。

 それが理由だった。

 だが、そんな特異体質は審査の対象にならず、壬生が使える魔法はすべて低級魔法ばかり、中級以上になれば八割の確率で暴発暴走する、ハイリスクな奴にさすがに好評を付ける人間はいなかった。

 しかし、魔力が無尽蔵だから低級魔法を維持、連続使用、同時使用を可能に出来る。

 塵も積もれば山となる。

 それが最強たる由縁だった。

 そんな彼女は夜空を見まわっている途中、家事になっている一件のアパートを発見する。

 野次馬は大量にいるが、肝心な消防車がいない様子。

 それに無言で近付き、壬生は件のアパートの真上まで移動するとばれないように様々な方角から大量水を一定方向に射出する創造魔法クリエイトマジックの一種、水圧射出ウォーターピストルを火の手に向かって打ち込んだ。

 その射出された場所は一万を超える。

 十分を越えたときには火の手は完全に消え去り、周囲の弥次馬たちは家事に対する騒がしさから、端からたみれば奇跡のような出来事への騒がしさに移り変わる。

 壬生はその光景を嬉しそうに眺め、すぐさまそこを後にして、夜を駆けた。

 彼女は某中学校を通った十四歳の少女で普段は何にも興味を示さない人間だった。

 だが、魔法使いとして空を駆け、誰かを助けることが出来るそんな瞬間が彼女に唯一、興味を与えていた。

 だから、誰かのためになったなと、自己満足でもそう思えたなら、彼女は嬉しかった。

 彼女は夜空を駆けて、一軒の高層マンションのベランダに立った。

 夏真っ只中のこの時期、この家の住民は窓を開けてて寝ていて、カーテンが風に捲れると、少しだけ、その先の部屋の中が垣間見えた。

 その先には一人の小さな女の子が寝息をたてていた。

 それを見て壬生は言う。


 「お姉ちゃん、今日も頑張ってるよ。だから、お前も頑張れよ」


 そう言って、再び、それへと駆けて行った。

 そう、壬生が見たその部屋、いや、マンションの一室は壬生の自宅だった場所だ。

 そして、その部屋の片隅にお仏壇があり、そこには壬生いおりの写真が飾っていた。

 


 たまに、死んでから魔法使いになるモノがいる。

 現代になって命溢れる世界になったが、昔はたくさんいたらしい。

 そして、死んだ者が魔法使いになると、生きている有限から、無に変わり、無限の魔力を得ることができる。

 壬生も、そんな奴の一人だった。


 「ねぇ、いつまで私のこと追ってんの?」


 (え?)


 「え?じゃない。さっき、つーかここ一週間ぐらい私のことを追ってんのは知ってんだからさ」


 (あ、すみません)

 (今回、魔法使いを題材に小説を書こうと思って、密着取材をしてました。)

 

 「へぇ…、密着取材ねぇ」


 先まで振り返らず、少し顔をこちらに向けて話していた壬生の顔がこちらをしっかり向いた。

 壬生の顔が怖い。

 そして、壬生は言う。


 「無段で密着してくんじゃねぇぇ!!このストーカー野郎!!」


 (ごめんなさい!!)


 最後に私の自己紹介をしよう。

 私は魔法使いランキング第一位、風祭かざまつり麻琴まこと

 無類の壬生好きである。

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最強で下から二番目の魔法使い みち木遊 @michikiyu

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