新しい仲間

 「なあ、俺も連れてってくれねーか?」


隠れ家を発つ日の朝早く、イヴにそう聞いたのはクーガだった。

イヴはきょとんとクーガを見た。


「どっか行くのか?」


「そういうわけじゃないんだけど、その……」


「ん?」


「いいだろ、別に。久々にエル・グランデでも覗こうかと思ったんだよ!」


イヴはしばらく考えていたが、にこっと笑って答えた。


「いいよ。男手があると助かるし、正直あの二人に色々教えるのも一人じゃ大変だったし」


「助かる」


「一応エナルたちにもお伺い立てなよ?」


こくこく頷くクーガにイヴは意地悪く微笑む。


「でもあとで事情聴取な?」


イヴの冷たい微笑みに、クーガは笑顔のまま固まった。




 クーガがついて来る事にエナルとカナルは喜んで頷いた。たくさんいた方が楽しいから、とニコニコ笑う二人は心から喜んでいるようだった。


「カナルたちもいいって」


「まあそうだろうな。お前、荷物はどうすんだ?」


「あー、倉庫の端の麻袋に全部詰まってると思うからそれ持ってく」


「あ、そ」


どうせ皇女たちは準備に時間が取られるからと、四人分の荷物を一気に詰めた。

あっという間に荷物は詰め終わり、その上、水の組み換えを終わらせると、双子が部屋から出てきた。


「おはよ」


「お早くはないけどね。おはよう」


ニコニコとするイヴを尻目に、クーガはふいっと顔を反らしてしまった。


「クーガ? どしたのー?」


子犬のようにクーガの周りをチョロチョロするカナルと、なぜか決して顔を合わせないクーガ。


「あー、なるほどね」


イヴはそっと呟いた。

エナルは少し心配そうに二人を見ていた。


「喧嘩でもしたの?」


「喧嘩なんてしてないもん。ねぇ、クーガ?」


「まあ……」


目を合わせてくれない上、どこか歯切れの悪い返事に双子は首を傾げた。

その様子をイヴはニヤニヤと眺めている。


「二人共心配しないでも大丈夫だよ。元からこういうやつだから。それより顔洗ってきな?」


「そうするー」


まだ眠たそうなエナルを、カナルが引っ張っていくのを確認して、イヴはふっと息を吐いた。

それからチラッとクーガを見ると、楽しげに肩を叩く。


「なるほどなー」


「なんだよ。気色悪りぃぞ」


「そりゃあな。確かにカナル可愛いもんな?」


「だからなんだよ……」


そのまま下を向いてしまったクーガに、イヴは意外そうな顔をした。


「なんだ、まだ気付いてないのか」


「は?」


「なんでも」


イヴはそれきりなにも言わなくなった。クーガは訳が分からないという顔をしている。


「洗ってきたよ!」


「おかえり。もう二人の分も荷物は詰めたから、出発するけど大丈夫?」


「ありがとう。いいわよ、身支度も完璧だわ」


エナルの言葉にカナルもこくこく頷いた。

それからウトウトとうたた寝をするティフに、スッと手のひらを向けた。


「ティフ、出発するよ!」


途端にティフは飛び起きて、仕事だと言うかのようにひとつあくびをした。

ググッと身体を沈めて、一行が乗るのを待ってくれていた。


「新しい仲間も入るからよろしくね。ねえ、クーガ?」


「……よろしく」


若干腰が引けつつ竜を見上げるクーガ。ティフはその緑の目でじっとクーガを眺めて、それからそろっと鼻を近付けた。

ティフなりの挨拶のようだった。


「さ、そろそろ日が出てきちゃうよ」


「早く行きましょう」


まだ日も出ていない森の空気は、鼻の奥をツンと冷やした。

その空気を吸い込んで飛び立ったティフは、深緑の翼を滑らかに動かしている。

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