子供の遊びと朝ごはん
カナルはイヴが見込んだ通り、いい動きをした。
素直に行動に移せる上、元々の運動神経がいいのだろう。
「そろそろエナルが起きてくるかもね」
「じゃあ終わり!」
カナルは素振りをしていた棒を放り投げて、ととっと駆け出した。
「今日はどうするんですかー?」
「エル・グランデに行くには山越えをしなきゃいけないので、山の方にひたすら飛ぶ」
「いつになく暇そう」
そろそろ旅をするにも慣れてきて、ただぼんやりすることも多い。
「せっかく宮を抜け出したのに、暇なことばっかり」
窮屈な宮を抜け出しても、時間が減るわけでもない。
要は慣れの問題だった。
「鬼ごっこでもしてれば?」
「二人で?」
「別に二人で楽しいでしょ」
はい、とイヴは一本の縄を手渡した。
受け取ったカナルは首をかしげる。
「なにこれ?」
「え。鬼ごっこするんでしょ?」
鬼ごっこになぜ縄が必要なのか、カナルは不思議そうだ。一方のイヴはなぜ必要ないのかが分からない様子。
「鬼ごっこって、鬼にタッチされたら鬼が交代のアレでしょ?」
「そうだよ。鬼は縄の上だけを歩けるアレ」
「縄の上だけを歩けるのって知らない!面白そう!」
「あ、これローカルルールなの……!」
縄を円状にして、その円を分断するようにもう一本縄を置く。逃げる側は円の中は自由に動ける。鬼は縄の上なら自由に動ける。
イヴが子供の頃にやった鬼ごっこはそういうルールだった。
「後でイヴもやろうよ」
「いいけど俺、縄から縄に飛べるから、鬼側はめちゃくちゃ強いよ?」
「それはアリなの!?」
カナルはケタケタと笑っている。
鬼ごっこひとつでこんなに純粋な笑顔をするカナルを、イヴは愛おしそうに見つめた。
「カナル早いのね」
「あ、おはようエナル」
エナルも起きたらしい。
イヴはパンっと手を叩くと言った。
「飯は作っててやるから、水浴びして着替えておいで」
「はーい」
二人して駆けていく後ろ姿を見送りつつ、なにを作ろうかとイヴは頭を巡らせた。
「ひゃあああ!?」
瞬間、その場をつんざく叫び声に、バタバタと鳥が逃げまどう。
双子の叫び声のようだった。
「どうした!?」
「なんか気持ち悪い……」
エナルが指差す川面には、たくさんの黒い蛇のようなものが泳いでいる。
イヴは呆れて笑うと、腰の短剣で一匹を突いた。
「これ川蛇って言うんだよ。ぬらぬらはしてるけど、危害は加えないし、なによりすごい美味い」
「食べるの!?」
「むしろ喜んで食べる」
イヴはにこにこして川蛇を掴むが、ぬるんと抜けてしまう。
「ごめん、カナル。向こうから小さい瓶持ってきてくれない?」
「ラジャ!」
その間に突き刺した川蛇の腹を開いて、水でゆすぐ。
エナルは何歩も離れたところで、顔をしかめてそれを見ていた。
「持ってきたよー」
「そこに水を入れて」
カナルは指示通り瓶に水を汲む。
イヴはぐっと川蛇を掴むと、そのまま瓶の中に入れた。
「育てるの?」
「捕まえとくの」
育てるわけないだろうとイヴは笑う。
何匹か捕まえて、また何匹かの腹を開いて、イヴは満足気だった。
「今日の朝食は川蛇だな。そいつら、危なくはないから、ちゃっちゃと着替えちゃいな」
「はーい」
元気のいい返事を聞きつつ、イヴは火を起こす。
木の棒を拾って、腹を開いた川蛇を刺すと、火で焼いた。
「いい香りする!」
「だろ。ほら、早く食べな」
戻ってきた二人はさっさと座ったが、エナルだけはまだ顔をしかめていた。
「齧ってみなって」
いやいや齧ると、エナルの顔が一気に輝いた。
「ふわふわしてる!」
「だから美味いって言ったろ」
皮はパリパリしてるし、身はふわふわしてるのに、脂も十分にのっていて美味しかった。
一心不乱に齧り付く皇女に笑いつつ、イヴも川蛇に舌鼓を打った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます