出席番号

別所高木

第1話 相沢

「だいたい、出席番号1番ってロクないことないよ。

先生だって、何も考えずに、名簿の一番上を指名するし、、、、

ほんと、授業に対する集中力が落ちてるとか、眠そうにしているとかだったら、俺たちの事考えてくれてるんだと思うけど。。。。

何も考えずに、ただ名簿の一番上にあるから指名するって不公平と思わない?

ニ番目だったら、一番目のやってる雰囲気を見てなんとなくできることもあるけど、

大概トップバッターだよ。

あーぁ、和久田が羨ましいよ。」


いきなり、自分を引き合いに出された、和久田は睨み返した。

「アイザワー。相沢なんて苗字に産まれたのが運の尽き!アイなんて続く苗字は高校を卒業するまで、いや一生出席番号一番に決まってる。観念するんだな。」

「和久田〜そんなこと言うなよ。ちょっとでいいから、変わってくれよ。

なんなら、俺と結婚して養子にしてくれ!そしたら、俺も和久田だ!」


「勘弁してくれよ!俺は同性婚には興味ないし。。。だいたい同性婚で養子ってできるのか?」


「できるんじゃねぇ?以前、うちのとなりに住んでる武史兄ちゃんが、急に女装してて「今日から私の事はシンディって呼ぶのよ」って言われたことあるし。結構自由なんじゃね?

和久田〜俺と結婚してくれよ!」


パシーーーーん!相沢の後頭部を強烈に張り倒す女生徒がいた。


「あんたら何気持ち悪いことやってるの!おかげで、サブイボが出たじゃない!」

制服を着た女生徒の半袖の腕には、鳥肌がビッシリ出ていた。


「いてーなー!お前は出席番号18番のソガノエミシ!相変わらず乱暴だな!」

「蘇我恵美子・ソ・ガ・エ・ミ・コ!入学してから3ヶ月も経つのに、まだ覚えられないの?バッカじゃない?」

「それより、お前!俺と和久田の関係をそんなにヤキモチを焼くなんて、もしかして、俺と結婚して養子にしてくれるのか?」


パシーーーーーん!


「誰があんたなんか、そんなん言ってるからクラス中の女子に避けられてるんじゃない!」

「みんなが避けるから、和久田に頼んでるのに、、、、あれもダメ、これもダメ!みんなダメ!ってどう言うことだよ!俺は猛烈に傷ついた。」

「あんたの傷は和久田に癒してもらいな!」

「やだよー僕。」


ガラガラガラガラ

教室の扉が開いて、先生が入ってきた。

先生の後ろには、この学校の制服とは違う制服を着た女の子が付いてきた。


ドヨドヨドヨドヨ・・・・教室にどよめきが走った。


「えーーー、転校生を紹介する。」

先生は黒板に大きな文字で名前を書き始めた。

「相」

「川」

「藍」

「今日から君たちと一緒に勉強をすることになった、相川藍さんだ。相川さん挨拶をして。」

「皆さんはじめまして。相川藍です。今まで兵庫県の学校に通っていたのですが、父の仕事の都合で静岡に引っ越してきました。子供の頃から母が天城越えが好きでよく聞かされて育ったので、今から一曲歌います!」

おぉぉぉぉ!クラス中がどよめいた。。。。。


♪隠しきれない〜♪

・・・・・・・・

・・・・・

♪天城~ごぉぉえぇぇぇぇ~♪


やんやの拍手とともに相沢の天城越えは終わった。

「スッキリしたようだな。席は委員長の蘇我の隣が空いてるから、そこに座って。」


「はじめまして、私が委員長やってる蘇我恵美子。何かわからない事があったらなんでも聞いてね。」

「はじめまして、私、相沢藍。神戸から来たの。よろしくしてね。」


授業が始まった。

。。。。。。。。。。

あっと言う間に事業が終わり、休み時間になった。

相沢の周りに多くのクラスメート達が集まってきた。


「相川さんって、美人なのに面白いわね。」「相沢さんって、関西人なんだ。新喜劇とか好き?」「甲子園って兵庫県にあるんでしょ。阪神好き?」矢継ぎ早にみんな相沢のことや、

兵庫県の知識をぶつけてくる。


相川は活発に対応しながらも、教室の後ろの方で、相沢と和久田が熱のこもった会話をしていた。


「あの転校生、アイカワだよ!」

「ほんと、世の中上には上がいるんだね。相沢より上がいるなんて想像した事なかったよ。これで、相沢は出席番号二番目だね。」

「そうだよ!俺、ほんと夢のようだ!人生初の出席番号2。長生きするといいこともあるもんだなぁ。」

「出席の練習しようぜ!僕が先生と相沢やるから!

えー、出席を取ります。相川さん。(声色を変えて)「はい」次相沢」

「はい!」

じーーーーーん!

「なんか、俺夢を見ているようだ。」


相川は後ろの相沢達が気になった。

「あの子達、大丈夫?」

「相沢?大丈夫よ。っていうか、近づかない方がいいよ。あいつこのクラス全員にプロポーズして、全員に断られて、クラスの女子全員にドン引きされてるやつよ。

相川さんも油断しないでね。」

「相沢・・・・」

相川はスッと立ち上がって相沢の方に歩いていく。

「相川さん危ないわよ!」

びっくりして蘇我は声をかけるが、相川はそのまま進んだ。


「相沢くん?」

「あ、相川さん。転校してきてくれてありがとうね。俺はいつまでも君の味方だ!

3年間同じクラスになれたらいいね。」


「ほんと、相沢くんだったら同じ苦労がわかるかと思って、声をかけたの。

相沢くんってきっと、生まれてこのかた、ずっと出席番号一番だったよね。

きっと、このまま一生出席番号一番で生き続けなきゃいけないって覚悟してたと思うの。

ほんと、だいたい、出席番号1番ってロクないことないわよね。

先生だって、何も考えずに、名簿の一番上を指名するし、、、、

ほんと、授業に対する集中力が落ちてるとか、眠そうにしているとかだったら、私たちの事考えてくれてるんだと思うけど。。。。

何も考えずに、ただ名簿の一番上にあるから指名するって不公平と思わない?

ニ番目だったら、一番目のやってる雰囲気を見てなんとなくできることもあるのにね。」


和久田が目をまん丸にして、びっくりしている。


「ほんと、俺も相川さんと同じことをずっと思ってた。でも、本当に共感できる人って今まで出会ったことなくて、本当に嬉しいよ。」

おもむろに相沢が立ち上がり両手を広げて、相川に近づいた時、

猛烈な蹴りが相沢の腹に入った。

蘇我の蹴りだ。

「え・エミシ・・・・」

相沢の体はくの字に折れ曲り、膝から倒れ落ちた。



・・・・・・

・・・・


翌日からの授業で相川の対応は素晴らしかった。

先生からの突然の質問もスラスラ答え、こなしていった。

クラス中で、相沢の時は答えられずに次々と質問が回されていったが、

相川は完全に答え切って、後の人たちを守ってくれる。

ガーディアン相沢とまで名声は高まり、そして、相沢はダメだバカ沢だという噂も広まっていった。


「相沢〜最近元気なくない?」

和久田が心配そうに声をかけてきた。

「おー和久田。。。俺に話しかけるとバカが感染るぞ」

そこに蘇我と相川がやってきた。

「相沢くん、ごめんね。こんなことになるなんて・・・」

「相川さんはちっとも悪くないよ、悪いのは俺がバカなことさ。。。。」

「相沢、せっかく相川さんが、心配してきてくれたのに、もうちょっと気が利いたことを言えないの?以前の相沢はわからないことを恥じることなんて全くなかったのに。

ウジウジ悩んで。。。。最低!」


ズキン!


蘇我言葉が突き刺さった。


どうしても辛抱たまらず、立ち上がり、相川を見つめて言った。

「お前が来てから、めちゃくちゃだ!出席番号が二番になっても、いいことなんか何もない!」

相沢は走って教室から出ていった。


「相沢くん!」

相川、蘇我、和久田は急いで追いかけた。


カンカンカンカンカン・・・

階段を駆け上がっていく。

和久田は連絡通知を思い出した。

「まずい、屋上のフェンスを工事するから立ち入り禁止になっていたはず!」

相川はびっくりして全力ダッシュで屋上に向かった。


相沢が屋上に到達した、全く悪意のない相沢に対して酷いことを言ってしまった自分に腹が立ち、網状のフェンスに体当たりした。


グラっ


フェンスが倒れ、相沢もろとも屋上から落ちた。


幸い網状のお陰で、フェンスは地面まで落下せずにフェンスと相沢は宙ぶらりんになっている。だが、危険な状況に変わりはない。


相沢は必死に網にしがみついた。

その時、屋上から相川の声が聞こえた。

「相沢くん、捕まって!」

屋上で腹ばいになり、必死に腕を伸ばしている。


「相沢くん、つかまって!」

「無理だよ!俺、酷いこと言ったのに、どのツラ下げて助けてもらえるんだ!」

「何にも気にしてない!何にも気にしてないから!相沢くんしかわからないの!

一番の苦労がわかる人って相沢くんしかいない!」

「もう、俺は二番目だ。もう関係のない話だ。」

「そんな事ない!絶対指名されるから授業の前に予習したことあるでしょ。いつ突然指名されるかわからないから、授業中油断することなんてできなかったでしょ。

一生一番で暮らす覚悟を決めた人なんて、相沢くんしかいない。

私が守るから!」


相沢の頭の中に小学校からの記憶が走馬灯のように走った。

授業の予習をしていったこと、いつも、先生の動作に注目していたこと、先生の質問に自分が答えまくって、クラスのみんなを守ろうとしたこと。。。。。


相沢の手が伸びて、相川の手に繋がった。


・・・・・


ゼーハーゼーハー

相川に手を引かれて、屋上に上がれた。


「相川ありがとう!俺、相川が来てから、色んなことで守られていたのに、気付かなくて。

差し伸べられた手も拒もうとしていた。。。。でも、ほんとありがとう。相川が来てくれなかったら、何も気付かずに生きていったかもしれない。。。いや、死んでいたかもしれない。」


相沢は相川の手をぎゅっと握りしめた。


「相沢くん・・・」


ドカッ!


相沢の脳天に踵が落ちてきた。。。


「後ろに蘇我さんがいるって、言おうとしたのに・・・・」


「工事のこととか背後の事とか、二番目になってか・・・」

蘇我さんが一人勝ちしたような形になった。








































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