第19話   結婚  (没19)

        『 結  婚 』          (没19) 

 一般のオッサン達と比べれば私は進歩的な考え方の持ち主と自負しているが、こと結婚に関しては実に古風かも知れない。

 決して旧時代の結婚形態を奨励するつもりはないが、基本的に私は子供のいる夫婦では離婚を認めない。なぜなら親の身勝手な都合で計り知れない精神的被害を受けるのは、子供だからである。離婚は夫婦間の問題だとしても、何の落ち度もない子供を絶対に犠牲にしてはならない。

 人生を航海に喩える人は多い。まさにその通りで人生が常に順風満帆な人は殆どいないだろうが、それでも人生を途中で止めるわけにはいかないように、結婚も相手が嫌になったからと言って、あっさりと解消してよいというものではない。何の責任もない十代を除けば、人生と同じくらい長く続く結婚に何が必要かは言うまでもなく、夫婦は身をもって子供にそれを伝えなければならない。

 結婚とは全くの他人が共に手を携えて長い航海に向かう事である。仮にお互いが相手をよく理解していなければ、夫婦船は前に進むどころか却って逆の方向に進んでしまうかも知れない。現代は男女平等の時代だからこそ船を漕ぎ出す前に、夢とか理想ばかりでなく現実的な問題についても時間をかけて話し合い、時には喧嘩で相手の本心が垣間見えてもなお生涯のパートナーとして選ぶ意思を、お互いが自分の心に確認しなくてはいけない。それこそが後々の無益な罵り合いと時間の浪費を避けるために何よりも重要な事である。

 子供は厳格な父と優しい母(逆転しても構わないが・・)の両者が揃って初めて、精神的にも肉体的にも健全に成長し、仲睦まじき夫婦から他者への思いやりと笑顔の大切さを知る。両親の度重なる喧噪や家庭内の冷ややかな空気で傷つかない子供はいる筈もないとすれば、両親には子供を産んだ以上、その子が独り立ちするまで静かに見守る義務が残る。それゆえ子供のいる夫婦で離婚が認められる状況とは、子供が独立した後の『熟年離婚』に限られると没価値男は主張する。

 欧米の風習を採り入れる事が悪いわけではないが、近年日本人の離婚率が激増しているのは、今の日本人が個人という一面に重きを置き過ぎるため、かつて日本の誇れる美徳の一つで結婚に最も大切な『忍耐(あるいは寛容)』を忘れてしまったからに違いない。

 確かに結婚にはどんな困難が待ち受けているか予想もつかない。度々どちらかが恋人時代とは全くの別人に豹変して、「こんな筈じゃなかったのに」と悔やむ話を耳にするが、結婚から一人きりの人生では得られない教訓を得られるのも結婚の真価だろう。

 結婚は桃源の世界ではないにしても、『出来ちゃった婚』とか称して安易な結婚を容認し、気軽にジコチュウな離婚を実践する近頃の若者たちには是が非でも伝えなければならない苦言がまた一つ増えた。

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