第16話  タイム イズント マネー (没16)

   『タイム イズント マネー』    (没16)

 昔「トゥー メニー ルールズ、トゥー メニー ルールズ、早く大人になりたい。お星様にそう願うの、だけど トゥー メニー ルールズ」という歌が流行った。確かに十代の頃は時間の経つのが遅く、大人に憧れて様々なルール違反をしたが(もちろん隠れて・・)、大人になってみると、それが別にどうって言う事じゃないと分かった。

 物事は全て経験してこそ意味がある、というのが私の持論の一つである。例えば、ある映画を見て「時間を損した」と悔やむのも最後まで見たから下せる判断であって、噂話や批評文を読んだ先入観から見るのを止めては決して正しい判断は得られない。つまり、物事は最後まで経験して初めてそれ自体が内包する真実を知ることができ、無駄を悟るという事は決して無駄ではない。

 若さの最大の特権は、とにかく時間があり余っている事だろう。それゆえ若者はできるだけ多くの物事を青春時代に経験すべきで、そのための時間のロスは決して人生の損失にはならず、後々の大きな成果となる可能性を秘めていると助言しよう。

 ところが時間は残念ながら無限のものではないのも事実で、いわゆる青年期を過ぎると途端に時間が矢のごとく過ぎて行く。というよりも、しなければならない雑事に追われて回り道をしている時間がない、と言った方が正しいかも知れない。仕事、子育て、対人関係、どれも完遂するまでに時間の掛かるものばかりで、一山超えたらまた一山のトラブルも、人生の荒波と格闘して挫けない自分を築き上げるために時が課した試練に違いない。

 しかし人生は辛い事ばかりでもない。しばしば幼年、青年、壮年、老年の四期に分けられる人生も、それぞれに苦と楽があると思われるけど、私は人生で最も充実した時を送れるのが老年期だと確信している。仕事や対人関係のコツを習得し、子育ての責任も終えた老年は何よりも今までの経験から時間の大切さを認識している。更にもう若くはない自分の残りの人生を考えて、『タイムはマネー以上』と尻をまくったオッサンには、若い頃を遥かに凌ぐ根性がある。それゆえ平凡な人生を実りあるものに変えることができるかどうかは、老年期次第と断言してもよい。

 美しさと体力では圧倒的に若さに敵わないが、団塊の中を潜りぬけた強かさと精神力で難局を(どーにか)乗り切りながら着実に己の『憧夢』に向かって歩むオッサンは、時に目覚めて十五分の空き時間すら無駄にしない集中力で一日をフルに活用する。

 例えば、一人暮らしのお婆さんと話をしてお代を戴けるように、現代はありとあらゆるモノが売り買いできる時代だ。そして全ての分野で『価格破壊』が進む時勢に、もしも時間を持て余している御方がいらしたら、ゼヒ当方に格安にてお分け頂きたい。お星様にもそう願おうか、だけど・・・。

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