第17話 まだまだ長い

5cmあった装具のソールが1cm抜かれて4cmに。

あまり変化は感じない。

歩くこともリハビリだが、歩くと足がかなりむくむ。

療法士が、優しくマッサージしてくれる。

「動かない時は、装具を外してマッサージしたり、動かしたりしてるんです。」

「いいですね。痛みが出ない程度にやって下さい。先生は、どれくらいの頻度でリハビリと言われてました?」

「まだ週1でソールを抜くので、金曜日に来て、その時リハビリして帰れば、みたいでした。」

「そうですか。分かりました。」

「そんなもんなんですかね?」

「先生によりますね。」

そうか。

もっと、頻繁にリハビリして、早い回復を促すのだと思っていたので、

かなりのスローペースな気がしてきたのだ。

装具に変わったことで、劇的に出来ることが多くなると期待していたので、

出来ることは、足を洗えることだけで、

後は、ギプスの時とあまり変わらない。

来週から、営業の仕事にも復帰予定だが、

松葉杖では、何かと難しい。

かと言って、無理したら再断裂しますよ、なんて言われると

無理も出来ない。

買い物もままならず、雨が降ったら傘も差せない。

お店には、1人で何とか行けるようになった。

片付けが、時間がかかる。

手で厨房まで、1個ずつしか運べないのだ。

両手が離せないためだ。

片手で1個ずつ…

それでも日銭を稼げるのはありがたいことだ。

4月最初の金曜日。

復帰の連絡はしたものの、誰か来て~

家電メーカーの後輩のMちゃんからは、

「先輩、行きますよ。」

と電話があった。

女性ばかり5人で来てくれた。

何も知らずに青色申告会の会長さんと役員さんも来られた。

「保険、申請した?」

「青申会の、まだ申請出来ませんが、連絡はしましたよ。」

その女性は、昨年、勲章を受章された。

公務員でもなく、企業の創業者でもないのに

勲章を受けるというのはなかなかないことだ。

その女性が、カラオケのレパートリーが書いてある手帳を取り出した。

真っ黒のコンパクトな手帳。

「あら?」

ちらっと見えた金色の菊の御紋。

「これ、勲章をもらった人しか持てないんですか?」

「買うのよ。カタログみたいなのが送られてきて、丁度手帳が欲しかったからいいかなと思って。恥ずかしいわ。」

隣にいた税理士さんは、国税局引退時に勲章をもらっていた。

「わしのとこには、そんなのこんで。」

「会費を払ってないんじゃろう。」

「払ってないよ。何にも来ん。」

受勲者の会みたいなのがあって、年会費を払うと、色々会報だかを送ってくるらしい。

そう分厚くもないその手帳は、なんと、3000円。

高~い!

一生私には縁のない話だ。

その後、新しく教育調整監に就任されたTさんが、教育長とご来店。

「ママさんにご挨拶に来ました。」

Tさんは、まだペーペーの頃に来店されていたのだ。

前調整監も後から合流。

賑やかになりました~。

7,8年前までは、3月4月の金曜日と言えば、

2,30人は当たり前だったが、

ここ数年10人以上なら良しとしようみたいになった。

2次会でスナックへという世代が、もう現役には少なくなってしまったし、

若者はお酒を飲まない。

歌も歌わない。

周りに気を使いたくない。

スナックは、絶滅危惧種だ。

それでも、まだ、来てくれる後輩もいる。

たまに思い出したように来て下さる大先輩もいる。

もう少し続けよう。

そう、もう少し。

松葉杖なしで歩けるようになるには、まだ1ヵ月以上かかるそうだ。

まだまだ、長いな~

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