ある吸血鬼の話

冬春夏秋(とはるなつき)

ある吸血鬼の話。



『ねえ、マスターが吸血鬼って本当?』



『本当。昼に私を見たことがあるかな?』


『や、わたし昼間は仕事してるから(笑)……証拠は?』



『一番好きなカクテルがブラッディマリー、とか?』


『あはは! なにそれー! 証拠になんないからっ』


『うーん……十字架が苦手』


『えー? ……じゃあ、ニンニクも?』


『そう』


『嘘ばっか』


『メニュー見てごらんなさい』



『ぅん? ……あ、トマト系豊富なのに本当にニンニクが入ったのないや』



『ね?』



『うーん? ……まだ弱いなぁ……あ! そうだ、わたしの血を吸ってよ』



『はは。恥知らずなお嬢さんだね』



『恥っ!? なんで!?』


『吸血鬼に「血を吸ってください」とか。ベッドに転がってって男に言うのと一緒だよ』



『ふーん……随分キャラ作るねーマスター。』


『本当のことだからね』



『…………』



『…………』








『マスター。女の子を好きになったりしないの?』



『いや、男を好きにはならないから』



『あ、あるんだやっぱり』



『まぁ人間だしね』



『……その人を吸血鬼にしちゃおうとか、思わなかったの?』



『…………』



『……意味深な沈黙だねぇ』




『私はね、人間だからこそ、を好きになったんだ。血を吸って同じモノになれたら一緒にいられるけど、それはもう私の愛した彼女じゃあ、ない』


『ふーん、わかんない感覚。……でも、どんなに愛しても――あっ、本当に吸血鬼って長生きなの?』


『本当。これでも三世紀目だよ』



『そっかぁ……どんなに愛しても、必ずその人の方が先に死んじゃうんだね。……辛くない?』



『そうでもないかな』


『なんで? 吸血鬼って淡泊なの?』




『吸血鬼にならないと解らないかもだけどね。……ずっと先のいつか。また生まれ変わった彼女と、会えるから。必ずね』



『……うーわー。ロマンだねぇー! それが本当だったら待ってられるね』



『うん』



『うへぇ。……じゃあ今はその、なんだ。生まれ変わった愛しの君待ちですか』


『いいえ?』



『あれ?』




『もう居るから』



『本当!? どんな人!?』



『……いつの時代でもね。必ず私の店に来て、こう聞くんだ。「ねぇ、マスターが吸血鬼って本当?」……私は本当、と答えている』



『…………』




『今回は121年と10ヶ月、飛んで四日待ったかな』





『うー、わー、あー……。マスター、上手いねぇ……』



『本当だから』



『あーあーっ照れた照れた! マスター! おかわりっ』


『はい。何を作りましょう』



『じゃあ一番得意とか言ってたブラッディマリーを。本当かどうか試してやる!!』









『あいにくと、トマトジュースを切らしています』




 そう言って彼は笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある吸血鬼の話 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る