日が沈む

【お世話になりました】そうま

日が沈む

 3月29日。私は2年間勤めた仕事を退職した。お世辞にも円満退職とは言えなかった。退職願を出した時に色々な所から「なんでこんな人手が足りない時に」と私は針山ではないのにチクチクと刺され続けた。


 眠れなくなった。まずはそこからだった。幼少期から眠りの浅い子で、寝られずに朝になることへは慣れていた。でも、毎日寝られない日々が続くことは初めてで、ネットで寝られる方法を調べて試してみたが全く効果はなかった。

 そこから、色々な症状が出て来て、定期的に都会の病院へ通うことが決まった。田舎には専門的な病院がないのだ。病院へ行くにはバス代が往復約3000円かかる。診察時間が午前だけだからバスの時間を考えるとホテルに宿泊しなくてはいけない、病院周辺の相場として一泊で6000円が飛ぶ。診察の度に増える薬の量と財布から飛んでいくお金。安月給の一人暮らしには大打撃だった。仕事を辞めて実家に戻ろう、そう決めた時にはもう身も心もズタボロだった。


 新居はここから車で約6時間かかる。実家近くに借りたワンルームのアパートだ。仕事終わりに6時間運転するのは気が引けたが、この町から早く出たい気持ちが勝った。ほとんどの物は捨てていく。小さな車に乗せたのは機内持ち込みサイズのキャリーバッグ1つと仕事用のA4サイズのファイルが入る鞄だけ。保険証と制服は後日郵送で職場へ送り付ける。これさえ送り付けてしまえば、もうこの町や職場と関わることはない。


 家の中を再度確認してから寮母さんに家の鍵を渡し、駐車場へと歩く。もうすぐ23時。最初の休憩地点に着くのは2時間後、相棒は久々の長距離運転に耐えてくれるだろうか。あと私が眠くならないかという不安もある。缶コーヒーとガムは購入済みだが。

「アルト、よろしくね」

 まあ、車が返事する訳ないか。でも、本当に頼むよ。夜逃げのようにこの町を去らなくては行けない、一刻も早く。嫌われ者に居場所はない。


 エンジンをかける。何故かテンションも上がってくる。今日はラジオではなく洋楽にしよう。ノリノリで走ってやる。思いっきりアクセルを踏む。

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