第56話
私にとって睡眠とは至高の時間である。故に毎日ほぼ決まった時間に寝るし、やることがなかったら眠る。
だが、しかし。普段なら夢の国へと旅立つ時刻になっても今日は中々寝付けなかった。
その理由の一つがこれだ。
スゥスゥと安らかな寝息を立てる夜瑠を傍目に、私は深い溜め息を吐く。
…なんで……私の布団で寝てるんだよ。
自分の布団で寝ればいいのに何故か私の布団に潜り込んでいるのだ。
布団決めをしようと言い出したのは夜瑠なのに、全くもって意味が分からない。
まぁ、それはいい。
私が夜瑠の布団で寝れば済む話だ。多少イラッとしたが許せない範囲ではない。後でその緩んだ頬を引っ張ってチャラにしてやろうと思っている。優しい私に感謝するといい。
一番の問題はコイツだ。
と、私は夜瑠に向けていた視線を横にズラした。
「――それでですね夕立お姉様、その時私は思いましたの」
「――ねぇ、夕立お姉様。お姉様もそう思いますわよね。それで、それでですね――」
「――お姉様お姉様お姉様!!!」
そこには一心不乱で言葉を発する常葉の姿があった。
いや、ね。流石にうるさすぎる。
私が放棄しているため、会話は成立していないはずなのに、かれこれ一時間はこの調子でずっと一人で喋り続けていた。ボキャブラリーが豊富すぎる。
もはや騒音。こんなんじゃ寝れるはずがない。
「あー、もう分かったから分かったから静かにしてくれ」
「嫌ですわ。語り足りませんもの」
お願いしようにもこの反応。
もうやだこの人。ホント話聞いてくれない……。
常葉にお姉様認定された件……早速だけど全力で拒否したくなった。
さて……本当にどうしようか……。
このままここにいても多分常葉のお喋りは終わらないだろう。
止めるためには何らかのアクションを起こさないと…………駄目だ。うるさすぎて考えが纏まらない。
まずは常葉を引き離さないと……。
とりあえずここは常葉対策のスペシャリストである朝日にお願いして………って、嘘だろ……。
私は辺りを一瞥して、顔をしかめた。
さっきまで起きてたはずの朝日が眠っていたのだ。
流石に寝ている人を起こすのは忍びない。逆の立場だったら間違いなくキレるし。
仕方なく、私はまだ起きていた真昼をチョイチョイと手で呼び寄せ耳元で囁くようにして言った。
「…………真昼。少しの間常葉を任せてもいい? 実はトイレに行きたくって」
「あー……確かに常葉さんなら付いていくって言いかねないもんね。分かった、いいよ。けど早めに帰ってきてね。流石に長時間は抑えられないから」
「分かってる」
目を交わして頷き合う。
私たちは四つ子。打ち合わせせずともタイミングを合わせるくらいお茶の子さいさいだ。
軽く目配せをし、次の瞬間、私は勢い良く部屋を飛び出した。
「お姉様!? 御手洗いなら私も一緒に――!? 離してください、真昼さん!?」
「多分四、五分で戻ってくるから、それまで常葉ちゃんは私としりとりでもして遊ぼう、ね?」
どうやら真昼の足止めは成功したようで、背後からそんな二人のやり取りが聞こえてきた。
が、五分程度で戻る気はさらさらない。最低でも十分は離れるつもりだった。
快く引き受けてくれた真昼には悪いけど、何とか時間稼ぎを頑張って貰いたい。
そんなことを考えながら、廊下を曲がろうとした。その時だった。
曲がると同時に視界に映り込む人影。
あっ、と思った時にはもう遅く、正面衝突をしてしまった。
「おっと…………」
「ご、ごめんなさい」
身長は私とそう変わらないが、おそらく中学生くらいの歳だろう。
やけに大人びた風格を醸し出しているショートカットの少女に、私は即座に頭を下げた。
「いいよ、別に気にしなくても。それよりも君、常葉ちゃんの友達でしょ? これからも仲良くしてあげてね」
少女は私の頭にポンと手を置くと、そう言い残して静かに去っていった。
少女が歩き去っていった方角を眺めながら、思う。
何故、あの少女は寂しそうな表情を浮かべたのだろうか……? 常葉とどういう関係なのだろうか? と。
しかし、いくら考えても答えが出るはずもなく。
私は去った少女のことを考えることを止め、どういうアクションを起こすか案を巡らせ始めた。
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