第51話

 ―――なんだここ。


 車から降りた私は目の前の豪邸を見て、そう思わずにはいられなかった。

 一言で言うと、天城院家は『規模』が違った。


 西四辻家や桜小路家と豪邸を見慣れた気でいたが、そんな私が呆気をとられてしまうほどの大きさだった。


「庭に川って……築山もあるわよ……」

「使用人らしき人も大勢いますね」

「見てみて! 大きな赤白の鯉が泳いでる!」


 姉妹達も感嘆の表情を浮かべ、それぞれに呟いている。


 それにしても、赤白の鯉って……錦鯉ですか。そうですか。あれ確か一匹で前世の私の給料と同等だった気が…………

 あれ、幻覚かな? 私の目には何十体もいるように見えるんだが。


「四人とも。付いておいで」


 そんな中、何度か訪れたことがあるのだろう。一切驚く素振りをみせなかった父は足を進め、私たちはその後を続いた。

 




「ようこそいらっしゃいました」


 父に案内されるがまま玄関をくぐると、常葉と、顔立ちの似た女性が出迎えてくれた。


 この人が常葉の母親なのだろうか? 

 そんな疑問に答えるかのように、女性は軽く頭を下げ、自己紹介をした。

 

「本日はよく来てくれましたね。私は茉莉。常葉の母です」

「西四辻尊です。本日は娘達を招いて頂きありがとうございます。ほら、四人とも挨拶しなさい」


 父に促され、簡単に挨拶。自己紹介を終えると、父は再度茉莉さんに向き合い、頭を下げた。


「娘達をよろしくお願いします」

「ええ、分かりました」

「では私はこれで失礼します。四人とも」


 父はこちらを向き、しゃがみこむようにして視線を合わせてきた。


「それじゃあ、私は仕事があるから帰るよ。何度も言うけどくれぐれも迷惑になるようなことはやらないようにな。……特に夜瑠」

「何で私!? それは聞き捨てならないわ!」


 どうも今朝の玄関での出来事が尾を引いているらしい。吠える夜瑠を無視して、父は私たち三人に告げる。


「朝日、真昼、夕立。夜瑠を任せたぞ」

「ちょっと!? お父さん!!」

「じゃ、また明日迎えに来るから」


 夜瑠はまだ何か言いたそうにしていたが、父はそう言うと足早に来た道を戻っていった。


「お父さんなんて嫌いよ……」

「まぁまぁ、落ち着いて夜瑠ちゃん」

「テディベア一体しか持ち運び許可してくれなかったし……」

「……結局持ってきたんだね」

「……一体しかって何体持ってこようとしてたんだよ」


 頬を膨らませて不貞腐れる夜瑠に、私たちは呆れた目を向けざるを得なかった。









「……で、午後から何しよう?」


 そんな事件(?)もあったが、常葉に客室に案内され、一通り荷物の整理が終わったところで、真昼が切り出した。


 友達の家で遊ぶなんて体験は姉妹にとって初めてのこと。だから何をして遊べばいいのかが分からないらしい。


 仕方ない、人生のベテランとしてここは一つ案を出してあげるか。


「トランプでもやるか?」

「いやトランプは常識的にお風呂上がりでしょ」


 私の案は夜瑠によってきっぱり否定された。てか、なにその常識。初耳なんだけど。


「うーん……何をしましょうか……」

「常葉ちゃん、何かいい案ある? 私たちとやりたいこととか……何かあったら教えてくれる?」


 自分達だけでは結論は出ないと早々に察したのか真昼が、それまでニコニコと笑いながら私たちの出す案に耳を傾けていた常葉に返答を求めた。


「やりたいことですか……そうですわね……」


 訊ねられた常葉は暫し考える仕草をした後、ポンと手を打ち提案した。


「地下の体育館でバスケとかはどうでしょうか?」



「いいね、それ!」

「是非やりましょう!」

「えぇ……運動するの……?」


 運動好きの朝日と真昼に反比例して、夜瑠はめんどくさそうに呟く。

 正直私も夜瑠と同じ意見だが、反対したところで代わりの案が出せる訳でもないので、何も言わず、結局午後からはバスケをすることになった。


 てか、サラッと流してたけど地下に体育館……? 

 ……ツッコミ入れるだけ無駄か。もう何も言うまい。

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