第21話

 とりあえず、一応読んでみるか。


 フォアグラパンを何とか完食し終えた私は招待状の封を開けて中身を取り出した。



 うん。高そうな便箋だ。100%オーダーメイド品だろう。

 便箋には桜の花弁マークが四つ―――桜小路家の家紋が刻まれていた。

 次いで目に入るのは達筆な文章。全て墨で書かれており、字の上手さが引き立って何かもう色々凄い。


 意図せず感嘆の声を漏らしてしまうほどだ。


 そして同時に思った。


 下手すぎても上手すぎてもダメなんだな、と。

 えーと。つまり何が言いたいかと言うと……。




 達筆すぎて何書いてあるのか読めねぇよ。






 全文の解読は不可能だったが、一部は読み取ることができた。

 そのため、辛うじて一つ分かったことがある。


 それは、この招待状は『夜瑠』へ宛てられた物ではなく、『西四辻家』に宛てられた物だったと言うこと。

 

 そう言えば、宵凪が「家族全員で」とか言ってたけど、こういうことだったのか。


 要するに夜瑠の件は口実で、実際の目的は西四辻家と関わりを深めたいとかそんな理由なのだろう。

 完全に橋渡しの材料にされたなこりゃ。


 この一回だけならまだ許容できるが、そんなわけもないだろう。今後も何度かこんな感じでパーティーの招待状が渡されるに違いない。



 色々とめんどくさくなってきたな……。


 西四辻家に産まれて七年。早くも人生楽々イージーモードが終わりを告げようとしていた。







「ほい」

「ん?なによ、これ?」


 家に帰り、夜瑠の部屋に乗り込んだ私は招待状を投げ渡した。


「桜小路がお前を呼び出した理由だよ。クリスマスパーティーの招待状らしい」

「え!? クリスマスパーティーの招待状!?」


 やはりまだ子供。パーティーと聞いて若干頬が緩んでいる。そんなに魅力的な単語だろうか……?

 パーティーと聞くと前世働いていた会社の社交パーティーを思い出すから、私にとっては、ただひたすらに恐怖の対象なんだが。

 部長の面白くない話を笑顔を貼り付けて聞いたり、度数が高い酒のイッキ飲みを強要させられたり、灰皿を頭にぶつけられたり、靴を舐めさせられたり…………えぇ、もう犯罪ですね。訴えておけばよかった。


「夕!? いきなりどうしたの!? 顔が真っ青よ!?」


 連鎖的に嫌なことを思い出してしまった。

 雑念を払うように顔を思いっきり横に振る。

 少し落ち着いてきた。


「……悪い。もう大丈夫。で、話を戻すけど、この招待状を父さんに渡してきてくれないか?」


 夜瑠が不思議そうな顔をした。


「別に良いけど。なんで私から? 夕が渡しに行けばいいのに」

「これは「夕立」じゃなくて「夜瑠」に渡されたんだ。私から渡すのは不自然だろ? 下手したら……入れ替わってたことが親にバレるぞ?」


 分かりやすく名前を強調して言うと、夜瑠は瞳に怯えを入り交じえながらウンウンと頷いた。


 入れ替わってたことがバレたら絶対に説教される。


 普段温厚な両親だが、説教時は性格が変わる。そんな両親の説教は社畜として怒られることに特化した私でも辛いレベルだ。夜瑠にとっては地獄と表現してもおかしくないくらいの恐怖だろう。


「確かにそうね。夕、あなた頭良いわね。じゃあさっそくだけどパパに渡してくるわ」

「うん。あ、扉閉めるの待って。私も部屋に戻るから。あともう一つ…………約束を忘れるなよ?」


 今日は精神的に疲れたから誰にも邪魔されずゴロゴロしたい。目で訴えると夜瑠はやれやれと言う顔をした。


「分かってるわよ。二人を近づけなきゃいいんでしょ?」

「頼むぞ……」

「はいはい」


 なんだその投げやりの返事は。「はい」は一回だろう?

 何て愚痴りたくなったが、そう言った言葉遣いは多分というかほぼ間違いなく私の影響なので、逆ギレされてもめんどくさいから軽くスルー。夜瑠と別れて自室へと戻った。


 そしてヘッドホンを装着してベッドへと沈む。

 あぁ。ゴロゴロって幸せだ。

 姉妹達の襲来に怯えることなく行ったゴロゴロは、まさしく至高だった。

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