一人っ子男児の俺が四つ子姉妹の一人になったわけ

とはるみな

第1話

 ジリジリと肌を焦がす太陽。ムシムシと暑苦しい室内。

 本日は今年最高気温でなんと43度を越えるらしい。

 世間では最悪のお盆と言われている。



 そう今日はお盆なのだ。



 普通なら休暇。だけど俺の働くこの会社には休暇という概念はない。

 世間一般ではブラック企業と呼ばれる類いの会社である。


 そして俺、森島もりしま夕輝ゆうきはそこに属する社員。否。社畜だ。


 デスクの上に山積みになっている書類。仕事はお盆だというのに、職場は普段と変わらない。いや、ひとつだけ変わっていることがあった。


 今日は冷房が付いてない。

 お盆だから節約しなければとかそんな上の命令で。


 ふざけんな。だったら休ませろ。


 なんて心の中で愚痴りながら、淡々と書類を片付けていく。


 ―――心の中で何を考えても良いが手は動かせ。


 先輩からの受け売りだ。


 ぶっちゃけ何にもありがたくない。

 ちなみにそれを語ってくれた先輩は二ヶ月ほど前転職した。ホワイト企業に入れることを期待して。

 今の時代ホワイトなんてほんの一握りしかない。

 おそらく先輩はまたブラックへと行くことになるのだろう。そして絶望するのだ。


 転職してここにやって来た今の俺のように。

 大丈夫。あんな立派な精神論を説いてくれた先輩だ。きっと新しい勤め先でも立派な社畜になれるだろう。


 にしても、今日は本当に暑いな。

 見れば肌には大滴な汗が浮かんでいた。シャツは汗で張り付いているし、椅子に座ってデスクワークをやっていたからパンツも蒸れてしまっている。


 時計を見れば、最後に確認したときから二時間も経っていた。

 そろそろ休憩を入れるか。流石に水分を摂らないと不味い。

 真っ黒なブラックと言えども労働災害は起こしたくないようで一日個人各三十分の休憩が与えられている。


 少なすぎる気もするが、これでも前職場よりはマシだ。あの職場十五分しか休憩くれなかったからな。


 一度作業に区切りを入れ、自販機に向かおうと立ち上がった。

 その時だった。


「……あれ?」


 グニャリと視界が歪んだ。

 平衡感覚が失われていく。

 何とか持ち直そうとデスクに手を着くが、全く力が入らない。

 ふらつきは収まらず、遂には膝から崩れ落ち。


「だ・・・・か―――!!」

「・ぐ・・・救急しゃ・・―――」


 もはや聞き取れなくなってしまった同僚の悲鳴じみた声と共に俺の意識は完全に途絶えた。














 これは夢だ。俺は確信した。

 自分が赤ちゃんになり、それも女の子になっているだけではなく、


 俺はチラリと左右を見る。

 三人。俺の他に顔立ちが良く似た三人の女の子が寝ていた。


 断片的に聞こえてくるこの子達の母らしき女性の言葉からして、どうやら俺達は四つ子らしい。

 転生して、且つ女になって、且つ四つ子。

 そんなツッコミ要素有りまくりの現状、夢でなければありえないだろう。


 また眠気が襲ってきた。前までは平気だった程度の眠気なのに何故か抗えない。

 俺は目が覚めたとき、病院の天井を眺めることを期待しながら瞼を閉じた。

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