第40話 馬

 馬はハティに限る。

 驚くほど揺れが少ないんですよ、騎士だから、騎士だからですか? 美女を横抱きにして乗る訓練してる?


 俺もお胸のおおきい美女を乗せたいです。小さくてもかまいませんけども。


「!?」


 段差っ! ハティに段差があります。見た目じゃあんまりなかったのに、着痩せか! 着痩せなのか!? 肌が白いから見た目の陰影が薄くてわかんない!?


「ロゼ?」

お腹、お腹にも段差が!


 困ったような声とカディの笑い声を無視してごそごそ確認してたら、マントで簀巻すまきにされました。


「く……っ。二人して段差自慢……」

あとマント暑いんですけど。


「カディモンドのように強調したことはないです」

ハティが笑顔で否定。


 そうね、ハティはいつも着込んでるしこの世界でどうやってるのってくらいアイロン効いてそうな服きてるよね。そしてそっとカディをディスる。


「俺もしてねぇよ」

「コートの下は薄着じゃないですか」

「かっちりした服を着込むの好きじゃねぇ。かたっ苦しい」


 なんか二人でじゃれあいはじめましたよ? ミナとファレルが声を出さずに笑ってる。森が続いて敵も出ない、要するにみんな暇なんですね? 


 俺は段差自慢されて傷心なんでミナのお胸で癒されたいです。


「そろそろ川のはずだが」

「ああ、見えてきましたね」

川辺でごはんですね? 


 何度かこの道を通ったことがあるらしいハティとカディに旅程はお任せなのだ。つい最近、カバラに来る時も通ってるはずだしね。


「薪取ってくる!」

馬を繋いでる四人に断って走り出す。いくらあんまり揺れないとはいえ、大きく動けないのはもう飽きましたよ。


「気をつけなよ」

「おい、一人で行くな」

「大丈夫ですよ」

カディは止めようとするけど、ミナとファレルは止めない。俺が意図的に一人になる時は転移でファレルの家とか箱庭に行ってるのを知っているからだ。


 今は純粋に動きたいだけだけどね!


 わーっと走ってちょっと発散。幼女の体力なんですぐに歩きにシフト。お? この棒いい感じ、薪拾いは多分期待されてないけどちゃんと拾いますよ。


 棒でばしばし雑草を避け、蜘蛛の巣を払って進む。特に目的はないけど、進みますよ。自由ですよ、自由。解き放たれた俺!


 とか思ってたら何かいる。


 魔物じゃなさそうだけど、こんなところに人? 川目指して迷ったのかな? そっと近づいてみたら木に寄りかかって寝ている人が一人。いや、具合が悪そう?


「大丈夫ですか?」

つついてみる俺。


 ちゃんと指です、棒でつつく真似はしませんよ。悪い病気じゃなさそうなんで触れても大丈夫です。【鑑定】したら衰弱って出てるんだけれども。


 回復を使っていいか迷ったんで、とりあえずハンカチに水を含ませて口元に持ってってみた。


「う……」

「生きてますか〜?」

ちょっと意識が戻ったようなので呼びかける。フードの中を覗き込んだら白ヒゲのおじいちゃんだった。


「おい、どうした」

後ろから現れたのはカディ、過保護さんですよ。


「何か落ちてました」

「倒れてるんだろ」

カディに場所を譲って、俺は反対側にちょこちょこと回る。


「あんまり良くねぇな。羽織ってるローブはみすぼらしいが、中に着てるもんは上等だ。それに浅手がいくつか」

おじいちゃんの意識が戻る前にカディが状態を手早く確認する。


「何したか知らねぇが、こりゃ追っ手がいる。かかわるのは賢くないぞ」

俺の顔を見るカディ。


「……そうだ、捨て置け。もはやこの世に未練はない。仕えたい主人もいない、人の世には憂いた」

しわがれた声がおじいちゃんの口から漏れた。


「ふーん、じゃあ遠慮なく」

立ち上がるカディ。ドライですよ。


「一応名前は聞いておこうか」

「……イスカ=シロワール=ロム。いや、ロムはもうつかんか」

えーと、覚えてます。覚えてますよ、名前が三つ並ぶ最後のやつは仕えてる人の家名ですね? 


「イスカ……。白の指し手イスカか!」

「白のさして?」

「遊戯盤で白い駒のやつが先手って決まってるだろ? 必ず先手を打つ軍師として有名なんだよ」

指し手か。しかも白って品行方正じゃなくって先読みってことなのね。まあ関係ないけど。


「ああ、もう。絶対ぇ厄介だろ、巻き込まれるのはごめんだが、なんか望みがあれば簡単なのなら一個聞いてやるぜ?」

「ない。故郷の一面の麦畑を見るのが望みだったが、どうせそこまで保たん」


 麦畑。


「おじいちゃんは畑仕事は得意ですか?」

「おう。元々儂は貧乏貴族の三男でな、領民と一緒に畑を耕しておった」

なんかおじいちゃんが遠い目し始めましたよ。カディが痛々しいもの見る目で見てますね?


「豚の世話は得意ですか?」

「得意かは知らんが、牛も豚も出産の立会いから解体まで己で行なったものよ」

おじいちゃんの口元に薄い笑みが浮かぶ。


「この世に未練はありますか」

「ない」

きっぱりと言い切るおじいちゃん。


「採用!」

「は?」

カディの間抜けな声が聞こえた。


「ちょっとこの人、お家に連れてきますね」


 農業人材ゲットですよ!


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