幽霊

ゆにろく

幽霊

「見られてる気がする……」


優はそう思った。 そして、その不安のあまり口に出てしまったというわけだ。 とはいえ、周りの人間達が優に注目することはなかった。


「……見られてる?」


「そうなんだよ、最近。 誰かが俺を見てる気がするんだよ」


「バカ言え、自意識過剰だろ」


「そうかぁ?」


優には友人の零士れいじがいた。 零士に優は不安を打ち明けるも軽く流されてしまい、なんともいえない気持ちになった。

優にとって見られているというのはとても恐ろしいことだった。 もし、本当に誰かにいつも見られているとすれば、近くにいる零士も何かに巻き込まれる可能性だってある。

なぜ、零士はこんなにもテキトウなのか優は疑問に思わずにはいられなかった。


「優。 まあ、そのときはそのときだろ?」


零士はおどけた様子で優に言った。


「おいおい、怖いこというの止めろよな」


優はこの能天気さを見習おうとは思わなかった。


優が零士に会ったきっかけ、ネットのとある掲示板だった。 優と零士は同じ目的を持っていたのである。 自殺だ。 二人は自殺を考えたいた。 優は会社によるストレス。 零士は妻に浮気をされたことが原因らしい。 目的を同じとしていて、悩みを抱えている二人はすぐに意気投合した。 不満や愚痴を言い合い、ストレスを発散したものだ。 今では良い友達である。


ある日のこと。


「零士! アイツだ!」


「……ほんとだ。 こっちみてんな」


こっちをジーっとみていた。

そいつは坊さんのようなカッコをしていた。

なにかぶつぶつとこちらを見て言っている。


「おい! 逃げようぜ!! 零士……?」


振り向くと零士はいなくなっていた。

逃げたのか?

いや、そんなすぐに逃げれるはずない!!

あいつにやられたのか?!

そう優は思った。


「くそっ!」


優は走った。

人混みを抜けて、ビルを抜けて、走って走って、逃げ続けた。


「ここまで来れ──」


あいつはすぐそこにいた。


「やめっ──」


「悪霊退散」


優は成仏し、彼方へ溶けていった。


「ふぅ。 自殺した男の霊2体の徐霊完了ですね」

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幽霊 ゆにろく @shunshun415

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